Hello,Mr.Porter.
下手くそですが許してください
「おはよう、ポーターさん!」
「おはようスミス君!今日もいい朝だね」
俺は本当はポーターという名前ではない。ポーター(porter:ホテルの荷物運び)は俺の仕事だ。スミス一家は家が無い。いや、家は有るんだ。ただスミス家は代々この国の大地主。国の政治にもロビイストを雇うことによって影響力を与えている。そんなスミス家には敵も多い。他の地主、正義面した若手政治家、そして彼の下で働く小作人だ。最近隣の国では革命が勃発し、君主がギロチンなる新しい処刑装置で首を切られたと聞く。おそらくこの国も革命の波が押し寄せて来るだろう。一つの土地に定住する訳にはいかない。そこで色々なホテルを転々とすることにした・・・ということだ。
一通り他の仕事が終わったし、そろそろ一服するか・・・あれもう帰ってきたぞ?
「ただいま、ポーターさん。今日ね、なんかね、リディちゃんの家に行ったんだけどね。なんかね今日はお家にたっくさんの人が入っていてね、お父さんが今日は止めとこうっていうから戻って来たんだ」
リディ・・・今日の夕刊で見たな。確か革命が起こった国の政治家の一家の御嬢ちゃんで、革命政権に追われていたはずだが・・・とうとう捕まっちまったか・・・
「それでね・・・お父さんがリディちゃんが幸せになるようにっていって教会に連れて行ってくれたんだ・・・僕ね、リディちゃんのためにいっしょうけんめい祈ったよ!」
「そうかそうか。荷物持ってやるからお父さんの所に行きなよ。お父さん心配してるぞぅ」
リディ嬢ちゃんも、スミスも大変な時代に生まれちまったな・・・普通なら誰よりも幸せな筈なのに・・・俺も懐が寂しいがな・・・そう言えば一昨日の新聞で
--我々の同志諸君!我々を苦しめてきた王党派の豚を連れてきたものに我々の楽園での地位を保証しよう!生死は問わない!
我々と共に新しい楽園を創ろうではないか!--
・・・なんてあった。スミス家もリストの中に載っていたな・・・俺はどちらかといえば持たざる人間。本音で言えばスミス家を売り飛ばしたくて仕方ない。新しい政府での名誉も欲しい。でも・・・でももし密告をすればスミスの坊ちゃんの命も危ないだろう。だってまだ10歳だぞ!10歳何て言ったら楽しい時期じゃないか。リディ嬢ちゃんみたいにはさせない!絶対に・・・
絶対に・・・だが・・・隠している事を知られたら俺も奴隷の身分だったとしても王党派として首をはねられるだろう。よりによってスミスの親父は俺のホテルに家族の他に召使い、料理人を何十人も連れてきやがった!馬鹿親父は意地でも贅沢したいらしいな。馬車も沢山こっちに寄越してきやがった。こんなんじゃ外からでもバレバレだ。どうする・・・こんなんじゃ俺たちの命も危ない。馬鹿親父だけでも・・・いや親父の回りには常にガードマンがついて回ってやがる。あの中を誘拐することも難しいだろう。
唯一ガードを介さずして近づける人間・・・いや・・・いや坊主だけは・・・
「ポーターさん?どうしたの?」
「おいおいスミス君、まだ居たのかい。」
「ポーターさん、ずっと棒のように立ってたから気になって戻って来たんだ」
「おうおうごめんな・・・俺は大丈夫だからもういきなよ」
「うん!ポーターさんおやすみ!」
「おやすみ・・・」
・・・ふぅ。ん?外に誰か居るぞ?
「もし!ホテルの従業員はいるか?」
ボロの軍服・・・革命軍かっ!
「このホテルに旧体制派の連中が居るという通報を受け取った!少しでいい!中を捜索させてほしい!」
「なんだ?あの馬車の事か?あの馬車はホテルの改修工事に来た連中のものだ。今ホテルには俺たち従業員と工事屋の連中しかいないはずだぞ」
「そうか・・・今日は遅い中失敬した。王党派の連中が来たら連絡をよろしく頼む」
・・・俺も面倒な事をしてしまったな・・・
「お前の今欲しいものは何だ」
「ん?なんだ急に?そうだな・・・息子、かな」
「なんだ?息子?おかしな奴だな!餓鬼なんか持っても良い事ないぞ!親の俺が言うんだ」
確かにな。面倒くさいかもしれない。だけどな、スミス一家を見てこんな気持ちになっちまったんだ・・・毎日話し相手が居て幸せなよに見えて仕方ないんだ
「・・・まぁ独り身だと話し相手も欲しくなるんでさ。もし来たら報告してやるよ。」
「ところでな。お前んちに上から命令が降っていてな・・・まぁそのなんだ、俺も衝撃だったんだが・・・報告にノルマが決まってな・・・最低一人との事だ。毎日な。無茶苦茶な話だろう?もしノルマを守れなかったら・・・粛正される。粛正、分かるだろう?俺達だって必死なんだ。じゃすまねぇな」
・・・なんてことだ・・・密告しなければ俺が死ぬ・・・ってことか
ーー夜は寝れなかった。ずっと密告を考えていた。いけない、いけないのだが・・・俺の命も危ない。どうにかして坊主だけでも助けないと・・・そう考えていた間あることを閃いた。俺も、坊主も助かる方法を、馬鹿の俺なりに。
「こんにちは、ポーターさん」
ーー俺は全てを捨てる覚悟が出来た
「おう。今日もいい天気だ。・・・そうだ俺と一緒にいいとこ行かないか?いつもお父さんと移動するような大変な生活もそこへ行けばこれで最後だ」
そう言えば横断歩道の手を繋いでる人の標識は誘拐殺人の現場だったっていう都市伝説があった気がする。本当はスミス君を革命軍に売り飛ばしてやろうかなとか思ってたけど話がおかしくなってしまって出来なかった。本当に自分のセンスの無さを痛感します・・・