ユニークスキル『百合』で女の子とイチャイチャするだけでレベルアップ!
わたしは冒険者ギルドと呼ばれる場所で、いつものように一人悩んでいた。未だに『レベル1』のままで、ろくに冒険にも出られていないわたしは、いよいよ追い詰められている。
――どうしてこんなことになってしまったのか。
それを話すと、まずわたしはこの世界の住人ではなかった、という話から始まる。
ここはわたしにとっては異世界で、いわゆる日本という国で社畜だったわたしは……仕事の疲れからか、事故に遭い――そして、女神を名乗る少女に出会った。
人生が不遇な者には、異世界への転生の機会が与えられるという。
それも、『ユニークスキル』と呼ばれるものを与えられて、異世界で無双することも可能になるという話……だった。
「……はあ」
わたしは小さくため息を吐く。
実際に無双できるかできないかで言うと、できていない。
スキルは個人の才能によるものらしく、選ぶことができないらしい。
そして、わたしが覚醒したユニークスキルの名は――『百合』。
花の名前ではなく、いわゆる女の子同士の『そういう関係』に関連するスキルだった。
……名前だけではどういう効果を持つスキルなのかも分からないだろうけれど、スキルを持っているわたし自身は詳細をよく知っている。
――このスキルは、『女の子とイチャイチャする』と物凄く経験値を得られるスキルらしい。
確かに、女の子とイチャイチャするだけで成長できるというのなら、チートと言っても過言ではないのかもしれない。
だって、要するに冒険に出る前に女の子と遊ぶだけで――わたしは強くなれるのだから。
その結果……わたしは異世界でユイカという十五歳の少女の姿に転生してから、未だにレベル上げができていない。
……考えても見てほしい。別に『百合』が嫌いとかじゃなくて、何だったらわたしは百合漫画もたくさん買うくらい好きだ。
女の子同士の恋愛でも、ちょっとしたイチャイチャでも、どっちでもいけるくらい百合は好き。
でも、それは傍から見て好きなだけで、わたしは別に女の子と百合な関係になりたいとは……思っていない。
そして何より、社会人になってから……仕事以外で真っ当にコミュニケーションを取ったことなどないのだ。
他人と仲良くなる方法など、わたしには分からない。
だからパーティを組もうにも、弱いままのわたしは積極的に話しかけられないし、そもそも異世界に来たばかりで、ろくに知識もないわたしが話せることもない。
話すネタがなければ、どうしようもないのだ。
少し前に、頑張ってギルドの受付嬢と仲良くなって、百合スキルによる経験値を得ようとした。
……その時は、こうなった。
「あ、あのー」
「はい、何でしょうか?」
「えっと、手を、ですね」
「……? はい?」
「ええと、手を握ってもいい、ですか?」
「え」
「あ、いや、深い意味はないんですけれど……」
「別に、構いませんよ。これでいいですか?」
「あ、ありがとうございます」
頑張って、ギルドの受付嬢と握手した。別に、スキルは発動しなかった。
――『百合』を名乗るだけあって、どうやら女の子と軽く話したり、スキンシップしたりする程度では……どうしようもないらしい。
コミュ力の高くないわたしに、女の子とイチャイチャしろという方が無理な話なのだ――そうして、わたしは冒険に出ることもできずに、ギルドを後にする。
……とはいえ、最初の軍資金として女神様から特別にもらったお金も、たくさんあるわけではない。いよいよ腹をくくって女の子とイチャイチャするように頑張るしかないのだが……。
「うぅ、どうすれば仲良くなれるんだろ……」
見た目は十五歳の女の子でも、中身はすでに何年か会社に通っている社会人。それも、コミュ力低いタイプのダメな大人だ……。
友達の作り方? そんなのわかるはずもない。
幼い頃のわたしはどうやって、人と仲良くなっていたのだろう……。こんな状態で、とてもじゃないけれど女の子とイチャイチャなんて、できるはずもない。
そう思っていると、わたしはふと――あるものを目にした。
「……奴隷市場?」
あまり行ったところのない方向であった。
読んで字のごとく、奴隷を扱っているところなのだろう。
当たり前のように奴隷が商品として取り扱われているわけだけれど、わたしが利用することはたぶん、ない――いや、ちょっと待ってほしい。
「ど、奴隷なら……イチャイチャできる、かな」
わたしの中で、そんな閃きがあった。
わたしからはイチャイチャすることはできないが、奴隷ならばそういうこともできるのではないだろうか。
あまりにも卑怯な考え方ではあるが――早い話、奴隷に命令して『百合』を成立させることができれば、わたしは成長できるかもしれない。
……とはいえ、わたしの持ち金は決して多いわけではない。
財布の中身を確認しながら……それでも、変わらない今の状況を変えるには、それしかなかった。
「……よしっ」
わたしは意を決し、奴隷市場へと足を踏み入れた。
***
結論から言おう。
残りの金をほとんど使って、一人の少女を買うことができた。
褐色の肌に黒い髪の、まだ幼さ残る顔立ちの少女だ。
元々はとある部族の出身らしいのだが、戦いに敗れ――奴隷に身を堕としたという少女。
「……」
少女は怒る様子も、怯えた様子もなく、静かな視線をわたしに送る。
ここはわたしが借りている宿の一室だ。
鉄の首輪をつけた少女を部屋に連れ込むことになるなんて……わたしは思いもしなかった。
「と、とりあえず、わたしの隣に座る?」
「……良いのですか?」
わたしの言葉に、少女はそう問いかけてくる。
「良いって、そんな畏まること?」
「……私は、奴隷です。どういう意図で貴女様が私を買われたのか分かりませんが――私は貴女様が望むことを致します」
生気のない瞳で、少女が告げる。――奴隷というのはそういうものなのか。
何やら話しているだけで、いけないことをしている気分になってくる。
だが、わたしの望むことをしてくれるというのなら、非常にありがたい。
「えっと、とりあえず名前を聞かせてもらってもいい?」
「私に名前はございません。主様が付けてくださいませ」
――そういう風に教え込まれているのか。
明らかに心を開いてくれていない少女に対し、無理矢理聞いたところで教えてくれもしないだろう。
「ううん……? はあ、リアでいい? わたしの好きな漫画のキャラに似てるから」
「リア……承知致しました。それでは、主様――何なりと、ご命令を」
どこまでも機械的に言う少女――リアに、わたしも中々どうしていいか悩んでしまう。
奴隷を買ったはいいが、思っていた感じとは少し違っていた。
……けれど、買ってしまったからにはやるしかない。
何せ、わたしにはもうお金も残されていないのだから。
「それじゃあ、お願い、するけど……」
「はい」
『百合』と言えば何か――軽いスキンシップでは何も起こらない。
超シンプルに考えるのであれば……一番簡単な方法は、これしかない。
「わ、わわ、わたしに、キス……してくれるかな!?」
「キス、ですか……?」
きょとんとした表情で、リアが問いかけてくる。
想像していた命令とは違ったのかもしれない。……わたしだって、わざわざ女の子の奴隷を買ったのに、やることがキスというのはおかしいと思う。
けれど仕方ない――わたしが成長するために、『百合』が必要なのだ。
「む、無理かな……!? 無理なら、抱き合うくらいでもいいんだけど……?」
早急に妥協を始めてしまうチキンなわたしに対して、ふるふると小さく首を横に振るリア。
そして、ゆっくりと彼女はわたしの傍に近寄り、
「失礼致します」
「――っ!」
優しく、口づけを交わした。
心の準備などする余裕もなく、わたしは人生で初めて――女の子とキスをしたのだ。
口元が柔らかく潤んでいて、すぐ目の前に可愛らしいリアの顔がある。
それだけでも、わたしの心臓は大きく高鳴った。
……わたしは別に、女の子が好きというわけではないのに。
『レベルが4に上がりました』
そんなゲームの音声のような知らせが、わたしの耳に届く。
――こうしてわたしは、初めてのキスを交わして初めてレベルアップをしたのだった。
こうして奴隷ちゃんとイチャイチャを重ねて、ダンジョンでもイチャイチャすることで無双するようなファンタジーをね、書きたいんですよ。
サキュバスちゃん(未登場)とKENZENなやり取りをしたりするようなファンタジーをね!
割と連載したくてしょうがないネタなのですが、一先ず短編で書きました。
モチベに繋がるので評価や感想はウェルカムです!