冬の魔女と知りたがりの青年
むかしむかし。
ある所に雪に覆われた土地がありました。
雪以外に何もなく、白い大地は冷たく、それでもなお雪が降り続くその大地を人々は『冬の国』と呼んで近づきませんでした。
人々は語ります。
この冬の国にいるのは魔女だと。
悪い魔女が魔法であの大地に雪を降らせ続けてあの大地を冬の国にしているのだと。
その話は遠くに伝わり、多くの騎士や勇者がその魔女を退治しようと冬の国に行き、一人として帰ってきませんでした。
そんな話が語り継がれたある国の村に、一人の少年が首をかしげました。
「どうして騎士や勇者は誰一人帰ってこなかったのだろう?」
語り継がれた物語はそれを教えてくれません。
少年は勇者ほど勇気があるわけでもなく、騎士ほど武勇に優れている訳でもありません。
ただ、その答えが知りたいと思いながら色々な事を学び、青年と呼ばれる年になったある日のことです。
「冬の国に行ってみたい。
そして、何で騎士や勇者が誰も帰らなかったのか知りたい!」
そう言って旅に出ることにしたのです。
青年は勇者ほど勇気がある訳ではありません。
青年は騎士ほど武勇がある訳でもありません。
ですが、少年の頃からの疑問は未だ心に残り、村一番の知恵者と呼ばれるようになっていたのでした。
青年はゆっくりと旅を続けます。
その旅の地を見て、聞いて、自分の頭で考えての旅で歩みは遅いものでした。
旅の途中、青年は勇者に出会います。
「そこの勇者様お待ち下さい。
あなたはどちらに向かわれるのですか?」
勇者は答えます。
優れた鎧を身に着け、国の宝とうたわれる名刀を掲げながら。
「もちろん、冬の国へ。
悪い魔女を退治しに行くのさ。
私は竜を倒し、多くの人々を助けてきた。
魔女を倒して冬の国に住む人々を助ける為に」
勇者の話は青年でも知っていました。
武勇も優れ、知略もあり、人々に慕われる彼はきっと冬の国の魔女を倒せると噂されています。
だからこそ、青年は勇者に聞いてみました。
「勇者様。
お聞きしたいことがあります。
なぜ、今までの勇者や騎士は誰も帰って来なかったのでしょう?」
勇者は答えます。
「青年よ。
それは魔女が狡猾で恐ろしい力を持っているからに違いない。
大丈夫だ。
私はそれを打ち倒してみせよう」
そう言って、勇者は足早に冬の国を目指し、二度と帰ってきませんでした。
青年はゆっくりと旅を続けます。
その旅の地を見て、聞いて、自分の頭で考えての旅で歩みは遅いものでした。
旅の途中、青年は騎士に出会います。
「そこの騎士様お待ち下さい。
あなたはどちらに向かわれるのですか?」
騎士は答えます。
優れた馬に乗り、多くの従者を引き連れながら。
「もちろん、冬の国へ。
悪い魔女を退治しに行くのさ。
私は戦場で長く戦い、多くの武勲をあげてきた。
魔女を倒して冬の国を我が領土にする為に」
騎士の話は青年でも知っていました。
多くの戦いを駆け、たくさんの敵を倒した彼はきっと冬の国の魔女を倒せると噂されています。
だからこそ、青年は騎士に聞いてみました。
「騎士様。
お聞きしたいことがあります。
なぜ、今までの勇者や騎士は誰も帰って来なかったのでしょう?」
騎士は答えます。
「青年よ。
それは魔女が狡猾で恐ろしい力を持っているからに違いない。
大丈夫だ。
私はそれを打ち倒してみせよう」
そう言って、騎士は従者とともに足早に冬の国を目指し、二度と帰ってきませんでした。
青年はゆっくりと旅を続けます。
その旅の地を見て、聞いて、自分の頭で考えての旅で歩みは遅いものでした。
青年は先に行って帰ってこなかった勇者と騎士の事を考えます。
「何で勇者と騎士は帰ってこなかったのだろう?」
そして青年はやっと冬の国の近くまでたどり着きました。
その寒さにたまらず近くの村で宿をとります。
宿の主人はまた来たのかという顔で青年を見つめました。
「あんた、冬の国に行くのかい?
やめておきな。
誰も帰ってこなかったよ」
青年は宿の主人に尋ねます。
「どうして誰も帰ってこなかったのですか?」
宿の主人はため息をついてその答えを青年に言いました。
「冬の国はあまりにも寒い。
それなのに、勇者も騎士も魔女を倒す装備だけを持って冬の国に入っていった。
みんな寒さで死んでしまったのだろうよ」
青年はやっと答えを得ました。
たしかに彼が会った勇者も騎士も、誰一人として寒さ対策をしていなかったのですから。
ですが、答えを得た途端に次の疑問が湧いてしまいました。
ちゃんと寒さ対策をしたら、魔女に会えるのではないかと。
青年は宿の主人に頼みます。
「お願いです。
ここで働かせてください。
そして、この場所の事をもっと教えてください」
宿の主人は青年の頼みを受け入れてくれ、青年は冬の国の近くでじっと冬の国を観察する事にしました。
一年が過ぎ、二年が過ぎ、三年が過ぎました。
その間、勇者と騎士が冬の国に向かっては帰って来ませんでしたが、やはり彼らは寒さ対策をしていませんでした。
そして、青年はやっと気づきます。
一年に一日だけ、雪が降らない日がある事に。
四年目。
青年は一年をかけて準備をしました。
犬ぞりを用意し、薪とテントを用意し、温かい毛皮に身を包んでその一日に青年は冬の国に向かいました。
犬ぞりは順調に走り、テントの中で薪を使って暖を取り、ついに一軒の家を見つけます。
「すいません。
誰か居ませんか?」
青年は声をかけると中から美女が出てきました。
「あら珍しい。
ここまで来る人は少ないのですよ」
それが、この冬の国に住む魔女でした。
魔女は扉を開けて青年を招こうとします。
「どうぞお上がりになってください。
寒かったでしょう。
温まってください。
お茶も出しましょう」
だけど青年はそれを断ります。
青年は知っていたからです。
雪が振らない日は一日だけだという事を。
ここに長居をしたら、帰れなくなる事を。
「申し訳ありません。
魔女さん。
私は私の疑問を解くためにここに来たのです。
ですから、もう帰らないといけません」
魔女は微笑みます。
そして、青年に尋ねました。
「私の誘いを断ったのはあなたがはじめてよ。
悪い魔女と私を退治しに来た勇者も、冬の国を征服しに来た騎士も、最後は私の誘いを受けたのに。
その知恵に免じて、何か一つ願いを叶えましょう」
魔女は青年に尋ねます。
青年はそれにこう返しました。
「でしたらお聞きしたいことがあります。
なぜ魔女さんはここに住んでいるのですか?
どうしてここを冬の国にしているのですか?」
その問いかけに、魔女ははじめて泣きました。
泣きながら、青年に真実を告げます。
「私はこの国の王女でした。
ですが、はるか昔に呪いによって魔女にされ、この地を冬の国に変えるように縛られているのです。
その呪いを解くのは、雪の降らないこの日に三度私を訪ねる事。
おねがいします。
どうか私の呪いを解いてください」
青年は無事に帰ってきたました。
帰らないと思っていた宿の主人も、村人も大喜びです。
青年の名前は、国中に鳴り響きました。
ですが、青年はどうやって帰ったのか誰にも話しませんでした。
「青年よ。
私と共に悪い魔女を倒そうではないか!」
新しい勇者は青年にこう持ちかけます。
けれども、青年は首を横に振りました。
「私には勇者様のように勇気がある訳ではありません。
ただ、知りたかったのです」
「青年よ。
私と共に冬の国を征服しようではないか!
共に戦ったら冬の国の半分を青年にあげよう」
新しい騎士は青年にこう持ちかけます。
けれども、青年は首を横に振りました。
「私には騎士様のように武勇がある訳ではありません。
ただ、知りたかったのです」
一年が過ぎ、約束通り青年は魔女の所に行きます。
二年目に会いに行くと、魔女は扉から出てきました。
「ああ。
これで自由になれる
本当にありがとう」
手を握って泣いている魔女に青年は出会ってから気になっていた質問を尋ねました。
「魔女さん。
これから魔女さんはどうするつもりですか?」
魔女は笑ったまま、青年に抱きついて口づけします。
「それは、貴方が考えてください。
私の呪いを解いた責任を取ってくださいね」
それ以後、冬の国では雪が降らなくなり、人々は魔女は居なくなったことを知ったのです。
そして、その時には青年は既に魔女と共に姿を消していてました。
数年後。
この国に賢者が現れて多くの助言によりこの国を助けたのですが、その側には常に美しい奥方が居たそうです。
めでたしめでたし。