第3話 転校生
チャイムが鳴り朝のホームルームが始まった。
翔は机に頬杖をしながら風で揺れるカーテンの隙間から空を見上げながらある事を考えていた。
(早く異世界に行き、力を開放して楽しい異世界暮らしがしたい!)
お決まりの心の中の”厨二病タイム”が始まった。
(何時になったら魔法とか使えるようになるんだろう?)
(お迎えまだかなー?)
(やっぱり異世界ならハーレムパラダイスとか最高だよな)
(はっはっは。俺のゴットフランクが疼くぜーえ!)
心の中で高ぶる感情を抑えながら口元を手で蔽い想わず顔に出てしまいそうな笑みを隠した。
出席を取り終り、今日も詰まらない一日が始まってしまう。
翔は呆けた顔をしながら考えていた。
「急な話だが、今日は転校生を紹介する」
担任の先生が覇気のない声で言ってきた。
この時期に転校生なんて珍しいなと思っていたが正直どうでもいいとも思っていた。
(煩いだけだ......)
翔は苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。
「入って来なさい!」
そう担任が言うと、”ガラガラ”とドアを開ける音を立て黒板の真ん中に立った転校生を見て翔は目を疑った。
「今日からこの学校でお世話になります。神薙 由比です。宜しく」
早朝公園で見かけた美しい少女の姿がそこにあった。
「綺麗な瞳」
「可愛いな!」
「あの子ハーフじゃね?」
周りが騒然とする中、彼女の在り来たりな挨拶を終えると、
「急な転入でまだ征服が出来ていない為、暫くは前の学校の制服で居てもらう!」
そう担任が言いながら翔の方に指を指してくる。
「成瀬の後ろの席が空いているのでそこに座るように」
現在翔の後ろの席は空白の席と化していた。
担任は翔の後ろに座るよう彼女に告げた。
引き攣った表情を浮かべながら俺の方を見ながらゆっくりと近づいてくる。
翔は挨拶代りに彼女に頭を下げるが、彼女は挨拶することなく無視して自分の席に座った。
(無視された...)
授業が終わりお昼休憩となった瞬間翔の後ろの席に男子や女子が群がって来た。
「神薙さんってハーフの人?綺麗な瞳してるねー」
「その制服可愛いねー。何処の制服?」
「一緒にお昼食べよ!」
まるで天然記念物の動物を囲むような風景だった。
嫌気がさしたのか、眉間に皺を寄せ苛立ちの表情を浮かべていた。
彼女は急に立ち上がり大きく深呼吸した後、
「私はこの世界を司る女神!気安く私に喋りかけないでくれますんかね?!」
彼女は教室全体に聞こえるように大声でその言葉を言った。
すっきりとした顔で綻ばせながら椅子に腰を掛けた。
クラスの空気が一気に重く、一気に静かになった。
「え......」
周りの人達はその場で固まり、隣の人同士で顔を見合わせた。
「何々?」
「マジかよ!?」
「神薙さんて厨二病なの?!」
「あんなに綺麗なのにね」
そう言いながら彼女の周りから人が居なくなっていった。
前の席で聞き耳を立てながら聞いていた翔は数秒固まっていた。
顔には出していないが内心は途轍もない興奮と感動で一杯であった。
あの美しさにあの言葉は厨二病の翔には最高に心に響ていたのだった。
(人を見下す表情に小悪魔的な笑み、神薙さん!それは反則です!)
台風の様なお昼時間が終わり、午後の授業が始まった。