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08 講義のお時間

 基本的に私はリーンとは違って、自分で言うのも恥ずかしいけど頭脳労働には向いていない。

 だから研究とか調合とかには参加させてくれない、というか調合は転んだら怖いとかかなり失礼な事をリーンに言われて禁止されているのだ。……実際そうそう転ばないもんと文句を言った数分後に躓いて鼻で笑われる屈辱を味わったけども。


 そんな訳で基本的に賢者と呼ばれる所以たるお仕事や探究には関われないのだけど、今日は違う。

 なんと、アーベル様が私の講義してくれるとの事で。


 今までずっと仲間はずれだったから寂しくて文句を言ったり駄々をこねて二人を困らせてきたけど、今回はちゃんとアーベル様の方から私に行ってきたのだから問題なし!

 ……まあ、当然乗り気ではないリーンには「君は参加しなくても良い」とか全否定の言葉を頂いたので、いーっと歯を剥き出しにして全面抗争の構えです。アーベル様に直ぐに窘められたけどね。




 気を取り直して、とアーベル様にお部屋に案内されて、私も気分よく中にお邪魔させて貰う。リーンが不機嫌そうだけど知らないもん。


「アーベル様、今日は何を教えてくれますか?」

「そうだね……今日は精霊について詳しく教えようか」


 椅子を勧めて貰って座った所で話し掛けると、穏やかな笑みを浮かべるアーベル様。私も釣られて笑みが浮かぶ。ただリーンは不服そう……というより、少し慌てたような眼差しで「師匠、それは」と物言いたそうにしていて。


 リーンは私が研究とかに携わろうとするのが気に食わないから、いつも突っ掛かって来るのだけど……今日は、ちょっと様子が違う? まるで、言ってはいけない事を言われるのを止めようとしてるみたいで。


 何で精霊さんの事を教えて貰っちゃ駄目なのだろう。精霊さんはこの世界の何処にだって居るし、私もよく遊んだりするから隠す事なんてないのに。寧ろリーンより直接的に精霊さんに関わってるから、深く知るべきだと思うんだけど……。


「師匠、モニカにはまだ早い、というか教えるべきではないです」

「そうかい? せめて魔術と魔法の違いくらいは教えておかないと、後々困るのはモニカだよ」

「……なんで精霊さんのお話なのに、魔術のお話になってるの?」


 魔術は不思議な力で起こす現象の事、って思ってたけど、違うの? と首を傾げると、アーベル様はちょっと違うね、と何とも言えなそうな笑み。

 呆れられてしまったかも、としょげたらリーンが代わりに呆れたらしくて馬鹿にするような眼差しを向けてくる。だって魔術使えないからそんなの知らなかったし……。


「魔術と魔法はちょっと違う。魔術はその理を知り起こしたい現象を再現する為の術式を用いて、現象を顕現させる事。代償は己の魔力を使う。魔法は精霊の力を借りて……言ってしまえば奇跡を起こす事だね。魔術が予め決められた事しか出来ないのに対し、魔法はその枠組みがないんだ」

「魔術は魔力がある人間なら研鑽を積めば習得出来るが、魔法は精霊に気に入られた、それも才能ある人間しか出来ない。魔術が学問という事に対して、魔法は体系化されていない奇跡の所業という訳だ」

「え、ええと……つまり?」

「魔術が技術で魔法が奇跡という事だ」


 これくらい聞いて理解しろ、と今度は確実に馬鹿にされてむっとなったものの、アーベル様のまあまあという仲裁で喧嘩までには至らない。初めて知った事に理解が遅いのなんて仕方ないと思うのに。


 リーンは頭が良いから何でも直ぐに理解しちゃう、だから私と頭の回転が違うし物事の処理の仕方も違うんだけど……その基準を私に適用されても困るというか。私が、頭悪いのが駄目なんだけど。


 うー、と唸りつつリーンにちょっと拗ねたような視線を送るとまた鼻で笑われた。か、可愛くない……。


「……じゃあ、魔術は頑張ったら出来るようになって、魔法は頑張っても出来ない人が居るっていう事ですか?」

「そうだね、魔術も才能はある程度要るけど……魔力がない人はあまり居ないからね。魔法に関しては先天的な資質がものを言うから、本当に使える人間なんて極僅かだよ」

「じゃあ私は使えないんですね、残念です」


 奇跡、と言われると使ってみたくはあるものの、使える人間なんて殆ど居ないと言われてはじゃあ無理か、と諦めるしかないよね。


 そもそも魔法と言われても具体的なイメージは思い付かないし何となく凄いんだろうな、程度の想像で、別にどうしても使いたい、とかそういう願いはなかったりする。

 ただ、使えたらアーベル様に奇跡を見せられるのかな、とほんのちょっぴりの私情があったくらいで。そんな事に使うなとリーンには怒られちゃいそう。


 言葉では残念と言いつつも大して落胆した訳でもないので少し眉を下げただけだったけれど、アーベル様ははなんとも言えない、困ったような顔。


「……モニカ、自覚はないんだね」

「え?」

「モニカがいつもやってる事は魔法そのものなんだよ」

「えっ、嘘」


 ……あれが魔法? 私、精霊さんにお願いして畑に水をやったりお風呂沸かしたり土を肥えさせたりしてるだけなんだけど……あれが、魔法?


「精霊を使役してる時点で気付け」

「使役じゃないもん、お願いだもん。嫌がるような事はお願いしてないもん」


 なんて人聞きの悪い。私は精霊さんとお友達だから、あくまでお願いしてるだけだし。見返りもないままにお願いを聞いて貰うのは悪いと思うけど、何だか精霊さん達は側に居たがるし進んで手伝ってくれるから頼りきりになってしまっているのだ。

 それを使役と言われるのは、ちょっと。


 ……それにしても、何だか意外。もっとこう、ばーんと凄い爆発みたいな事するのが魔法だと思ってたんだけど……。兎に角本なんかに出てくる魔法使いみたいなの想像してたから、拍子抜けというか。


「じゃあ魔法って思ったより凄くないんだね、私いつも畑耕すの手伝って貰ったりお風呂沸かして貰ったりお水やり手伝って貰ってたから」

「……精霊をそんな適当な扱いするのは君くらいなものだよ……」


 私が普通にしてた事が魔法だとなると、案外魔法は普通なものなんだなーとちょっとがっかりというか不思議な気分になるのだけど、リーンはより呆れを濃くしている。

 心なしか、ぐったりしている気が。


「まあ、モニカは使役というかお願いだからね。モニカは願うだけで叶うからねえ」

「その凄さを知らないっていうのは頭が痛いぞ……」

「えっ、私凄いの? リーンより?」

「素質的にはな。残念ながら頭は……」

「ひどいー!」


 私がリーンより知識とかは劣ってるのは自覚してるもん、そういう事わざわざ言うから可愛げがないんだよリーンは。


「でも、私ももっとこう、凄い事したいな。二人は普通に魔術使えるもん」


 アーベル様やリーンは、戦える、らしい。特に危険に晒された事はないし使う機会なんてないけど、二人は私を除け者にして特訓してるみたいだけど……見学させて欲しいって言ったら追い返されるし。

 ちょっとくらい見せてくれても良いのに、リーンはけちなんだから。


 私だってもっと大きな事してみたい、と主張するとまた呆れた眼差しが私に向けられる。


「何だよ凄い事って」

「えーと、ほら、お野菜沢山作ったり、果物実らせたり……」

「……食い意地張ってるな」

「うっ」

「ふっ、はは、精霊の力をそういう事に使おうとする子は君しか居ないと思うよ」

「アーベル様まで……」


 リーンはあほの子を見るような呆れたような表情、アーベル様は愉快そうな笑み。二人して生暖かい眼差しで、私をこれまた生暖かく見てくるのだ。

 ……そ、そんな目で見なくたって良いじゃない。戦うとか想像つかないんだもん。


 つぼに入ったらしく喉を鳴らして体を抱えるようにして笑いによる震えを堪えているアーベル様に「笑わないで下さいっ」と不満を飛ばせば、何とか落ち着いたらしくゆったりとした笑みに戻ります。


「まあ、優しい子に育ってくれて何よりだよ」

「……自衛の術くらい身に付けさせるべきだと思いますが」

「まだまだ子供に危険物を持たせるべきじゃないよ」

「今馬鹿にされたのは分かりますよ……?」


 アーベル様のばか、と膨れっ面。

 ……アーベル様にとっとは子供なんだろうけど、私だって大きくなったししっかりしてきた筈だもん。


 むー、と唇を尖らせて頬を風船状にした私に更に笑みを深めたアーベル様は私の事を撫でては「そういうつもりじゃなかったんだけどね」と宥めてきて。……それが子供扱いなのでは。


「加減が出来ないだろうモニカに傷付ける術はあまり持たせたくはないのだけど……そうだね、ちょっとずつ練習していこうか」

「……二人の仲間に入れてくれるのですか?」


 てっきり駄目だと言われるのだと諦めていたのに。


「そうだね、ちょっとずつだよ」

「わーい! 約束ですよ!」

「……師匠」

「まずは癒しを覚えてもらうくらいだよ。無理な事はさせない」


 事故されても困るからねえ、とのほほんと笑ったアーベル様に、私はどれだけおっちょこちょいというイメージが持たれているのか問いたくなったこの頃。

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