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07 命の洗濯、大切

 リーンは、研究以外は極度の面倒臭がりだったりする。


「リーン、お風呂に入りなさい」


 リーンは身の回りの事に頓着しないし生活能力皆無と言えるくらいに家事系は何にも出来ない。代わりに研究に特化して頭は良いし記憶力もあるのでそこで釣り合いを持たせているのかもしれない。

 アーベル様はリーンに近いけどやれば何でも出来る人なので、私が進んでお世話……というかリーン的には口うるさく言うのは、リーンだけだったりする。


 賢いけど生活能力はない、そんなリーンは、お風呂が嫌いだった。


「後でだ。今はこっちに忙しい」

「……リーン」


 精霊さんが居るからお願いして毎日お風呂に入れる環境だというのに、リーンは進んで入ろうとしない。お風呂嫌いの子供って居るみたいだけど、リーンはまさにそれなのだ。


 読書に夢中で、お風呂を炊いたのに全然入ってくれないリーン。もう私もアーベル様も入って髪まで乾かしているというのに(精霊さんにご助力願いました)リーンだけこうして入るのを拒否している。

 最早毎日のやり取りになってはいるのだけど、私が負ける訳にはいかない。


「アーベル様、リーンがお風呂に入ってくれません」


 なので、一番効果的なアーベル様に言い付ける事にした。

 リーンはアーベル様には基本的に素直だしそもそも逆らえないので、リーンが悪い事をしたらアーベル様に告げるのが尤も手っ取り早い。但し毎回言ってもアーベル様の笠に着るのも嫌だからどうしてもという時だけだけど。


 湯上がりほっこりで何だか色っぽいアーベル様は、私達のやり取りを薬草茶を飲みながらのんびり見守っていた。


「ははは、リーンはお風呂好きじゃないからね」

「アーベル様からも何か言って下さい」

「こら、リーン、ちゃんと入らなきゃ駄目だろう?」

「少々入らなくても死にません」

「ふむ、それもそうだね」

「アーベル様まで……っ!」


 確かに一理あるね、とリーンに頷きかけたアーベル様に不満の視線を送ると、アーベル様はころころと愉快そうに喉を鳴らして笑っている。

 ……今回アーベル様は面白がっているので助けは期待出来そうにない。


 だから私が頑張ってリーンをお風呂に入れなきゃいけないのだ。この一家の家事を背負ってる者として、ちゃんとリーンにはお風呂に入ってもらわなきゃ。服も洗いたいし。だってリーンが着てる服、薬液付いて裾の辺りが緑のまだらになってるんだもん。


 むむ、と唇を歪めて、私はリーンの元に。ソファで本を読むリーンの前に立って、それから肩を掴んで揺する事にした。


「こら、ちゃんと入らなきゃ駄目でしょ」

「揺らすな馬鹿」

「入らないならこっちにも考えがあるんだから」

「ほー、考えとは?」

「自主的に入らないなら引き摺って服も無理矢理脱がしてお風呂に突っ込むからね?」


 実力行使もやむを得ません、と揺さぶりながら言い切ると、漸くリーンは本から顔を上げてくれた。


「……君、それもどうかと思うぞ」

「何なら私が洗ってあげても良いよ」

「良くない」

「リーン、いつも髪適当に洗うじゃない。ちゃんと洗ってあげるよ? 折角綺麗な髪なのに勿体ない」

「余計なお世話だ。あと恥じらいは持て」

「え、私服着たままだよ?」

「……もう良い」


 一回お風呂に入ったんだから着替えるのも面倒臭いし、とちょっとリーンみたいな事を思ってしまったけど私はちゃんと入った上で思ってるから問題ない。

 別にリーンの裸なんて昔見た事あるし気にしないけどなー、と零したらリーンは目を剥いて、それから頭を抱えてしまった。小さく「モニカの羞恥心を心配するべきなのか」と言われて、何か割と馬鹿にされた気分になるのだけど。


 頭を抱えるリーンに首を傾げる私、対照的な光景に様子を見ていたアーベル様は堪えきれなくなったように声を上げて笑っている。……アーベル様まで。


「はは、リーンもモニカの前では形無しだね。ほらリーン、観念して入っておいで。モニカに背中を流して貰いたいなら別だけど」

「分かりましたよ、入ってきます」


 最初にアーベル様に諭された時とは真逆で、直ぐに立ち上がってさっさとお風呂に向かうリーン。……何で最初からそうしなかったの。


「そんなに私に洗われるの嫌なの……?」

「リーンもああ見えて思春期とやらだからね。モニカももうそろそろ女の子の自覚を持った方が良いと思うよ」

「自覚はありますけど……」


 ちゃんと女の子って事は理解してるし、普通に可愛いものとか甘いものとか好きな一般的な女の子……だと思っているんだけどな。これじゃあ駄目なのかな。

 リーンとお風呂に入るのに抵抗ないのは、そもそも昔は普通に入ってたし、家族だし……。最近は入ってくれないというか、そもそもお風呂嫌がってるからそういう問題じゃないけど。


「リーンもそこは可哀想だよねえ」


 ……そんなに私に洗われるのが嫌なのかな。髪洗うだけなのに。


 むう、と唇を尖らせると、それ以上は私に言うつもりがないアーベル様は肩を竦めるだけ。

 もうこうなったらアーベル様が答えを言うつもりがないのは分かっているので、答え合わせは諦めてリーンがお風呂から上がるのを待つ事にした。そんな私にアーベル様は意味深な笑顔を送るだけ。


「でもまあ、本当にモニカは家事に関してはしっかり習得したよね。時々おっちょこちょいさんだけど」

「そ、そんな事ないですもんっ」

「はは、そうかな? まあ逆にリーンは生活能力に欠けるからねえ……そこの所はモニカが居れば安心だよ。ある意味釣り合いは取れてるんだけど」

「ふふ、私はリーンのお姉ちゃんですから!」


 私の方が先にアーベル様に拾われたし、どっちとも正確な誕生日なんて分からないから私がお姉ちゃんで良いと思うの。やってる事はお母さんだけども。……お母さんってどんな人なのか、分かんないから想像だけどね。


「リーンが聞いたら色んな意味で激しく拒否しそうだね」


 色んな意味でってどんな意味ですかアーベル様。

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