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05 素直な気持ちでごめんなさい


 集合場所に行くと既にリーンは待ち構えていた、けど……何か私の顔を見た瞬間何かを懐に隠した。リーンもお小遣いで何かを買ったらしいけど……まあ此処でつつくとリーンが怒りそうなので止めておこう。


 もう良い? と用事は済ませたか問い掛けると、リーンは静かに頷いては館に帰る道を戻り出す。

 私は頑張って先を歩くリーンの背中を眺めながら、企みを実行に移すならやっぱりあそこじゃないと駄目だよね、と作戦を構想。リーンは寄り道するなって言ってきそうなので、此処は強引に引っ張るしかないとも決意するけど。


「ねえリーン、泉に寄りたいな」

「却下」


 案の定即座に却下されたけど、めげない。

 今度は私がリーンの手首を掴んで、帰り道から少し外れるけれど、リーンと一緒じゃないと意味がないからちょっと強引にでも連れていかせて貰います。


「良いじゃない、行こ?」


 ぎゅーっと腕に抱き着いて精一杯おねだりすると、何故か一瞬固まって頬を僅かに染めるリーン。視線が抱き着いた腕に走って、それから「離れろ馬鹿」と何処か呻くように拒んでくる。


 しかし、私はめげないのだ。私としては泉が一番お願いしやすいから何としても泉に行かなきゃいけないのである。


 強く抱き着いて良いじゃん良いじゃんとべたべたしていたら、リーンが根負けしてくれて渋々泉に寄ってくれる事となった。やったね!


 非常に気は進まなそうなリーンと対照的に私はにこにこと笑いながらリーンの腕を引っ張る。くっついたら何故かかなり怒られるので手を握るだけにしておいたのだけど、それでもリーンは何だか目を合わせてくれない。


 えへーと笑いながら泉に辿り着くと、私はリーンを泉の前に連れてきて、それから小さく「おいで」と呟く。


 途端にふわりと何もない所から灯りが灯るように、小さな光の玉が次々と現れては私達を取り囲んで揺らめいた。

 普段は人に見えないように姿を消しているけれど、この森、特にこの泉の側には無数の精霊さんが居るのだ。


「精霊さん、こんにちは」


 私の特技……というか特性は、精霊さん達とお話出来る事。


 本来精霊さんは人間と意思疏通を図る事なんて出来ないし、そもそも普段は姿を消している。けど、私は何故か特別らしく、精霊さんとお話が出来るのだ。これが唯一の特技と言っても良いかもしれない。

 まあ、お話といっても人語を解する精霊さんはそうそう居なくて、何となく意思が分かる程度なのだけど。


 また来たよ、と手を振ってくるんと一回転すると、私の髪に乗るようにして精霊さん達もふわりと舞う。へへー、と笑うと柔らかく明滅する精霊さんは、私の来訪を喜んでくれているみたい。


 言葉は交わせないけど感情は分かるので健気な精霊さんが可愛らしくて仕方なくて、ついついそのままくるくる回って踊っていたら、側で見ていたリーンの呆れるような溜め息が届いた。


「……君は相変わらず、色々と怖いな」

「何でそうなったのよ」

「自覚のないところが怖いんだ。それと、無闇に精霊を可視化させるな。誰に見られるかも分からないんだぞ」


 リーンは咎めるようにきつめに言って、私を細めた瞳で見詰め、それから辺りを警戒するように視線を移動させる。


 ……そう、精霊は普通見えないけれど、こうして私とお話しする時は姿を見せてくれるので、他人にも見えてしまう。だから今のもリーンには見えているし、リーンが警戒するのも分かるんだけど……。


 でも、此処は村の人間が近付いてはならない場所。精霊の住まう泉。悪しき者が近付けば穢れてしまうとされているし、精霊は敬うべき存在なので普通村人は近寄らない。

 ……私は村の人間じゃないから掟なんて知らないもん。それに、精霊さんとはお友達だから大丈夫だもん。


「此処にはリーンしか居ないし」

「僕は君のそういう無警戒で無邪気な所が嫌だ」

「私はリーンの嫌味ったらしくてねちねちしてる所が嫌よ」

「……何処が嫌味ったらしいんだ、大体君は考えなしだから、」

「そういう所を言うの」


 私が反論する度に、リーンの顔がどんどん歪んでいく。

 ……いけない、また売り言葉に買い言葉で喧嘩しようとしてた。折角仲直りしようと思って、此処に来たのに。


「……喧嘩は止めよっか。喧嘩しに此処に来た訳じゃないもん」


 やってしまったと後悔しつつ私は眉を下げてリーンを窺うと、呆気に取られたような表情が返ってくる。私から止めたのが意外だったらしい。


「えっとね、リーン、ごめんね。あの時リーンの邪魔、するつもりはなかったんだけど……その、どうしても見たかったの。邪魔して、ごめんなさい」


 自分が悪いと思ったならちゃんと謝る、これはとても大切な事。アーベル様も私達に喧嘩なんてして欲しくないだろうし、ちゃんと仲直りしなきゃ。

 そう思って頭を下げてから恐る恐るリーンを窺うと、なんだかバツが悪そうだというか「何で考える事同じなんだよ」とか小さくぼやいていて。


「……別に。僕こそ、少し言い過ぎた」

「え、嘘、リーンが謝った」

「……君は本当に失礼なやつだな。僕だって謝罪はする」


 まさかあの頑固者のリーンが謝ってくるなんて思ってなくて瞳をぱちくりと開閉させていたら、私の言葉が癪に障ったらしいリーンからこめかみをぐりぐりと強く抉るように押されて「いたいいたい」と悲鳴を上げてしまった。


 ひどい、ちょっと感動したのに全部台無しだよリーン。


 こめかみを襲撃した地味な痛みに涙目になってしまったものの、リーンがいつもの表情に戻ったので、良かったとは思う。ただぐりぐりした恨みは忘れないのでぽこりと胸を一度殴ったけど堪えた様子はなかった。


 リーンのばか、と文句を言うけれど、自分でもその声に棘はないって自覚してる。だからこそ、リーンはちょっとだけ眼差しを和らげて頭をぐしゃりと撫でてきた。

 ……髪をぐしゃぐしゃにしないで欲しいと文句を言うのはこの際止めておこっと。

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