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03 お手伝い失敗の後、喧嘩

 私がお手伝いをすると知った時のリーンの形相といったら。


 言った瞬間これでもかと顔を顰めて、入った私を追い出そうとしてくるので即座にアーベル様に救援を求めておいた。アーベル様の言う事には逆らえないリーンなので、アーベル様が事情を説明すれば不承不承、とても嫌そうに頷いてくれた。


 ……そんなに嫌そうな顔をしなくたって良いのに。私の方が基本的にリーンより器用だからこういうのは上手く出来る気がするのにー。調合部屋は男の聖域、という事なのだろうか。


「モニカ、それを粉末にしておくれ。なるべく細かくね」

「はーい!」


 リーンに怒られるのもアーベル様に呆れられるのも嫌なので、笑顔で頷きつつも作業は慎重に。

 天日干しにしてパキパキのからっからになった薬草を、すり鉢とすりこぎで挽いていく。アーベル様はなるべく細かくって言ったから、完全に粉末状にしなくては。


 地味な作業ではあるけど、こういう所を欠かしては成分がちゃんと抽出出来なくなる、ってアーベル様が。薬草の種類ごとにそれぞれ加工方法や、同じ薬草でも加工によって別の用途があるらしく、こういう事を全部記憶してるのは凄いな、と純粋に思う。


 私は薬草の見分けは出来るけど調合には一切関わらせて貰えなかったから、そこの所問題なくこなしてるリーンも尊敬はしてるよ? ……ちょっと意地悪だけど。


 まあそんな感じでリーンにぶつぶつ文句言われながらも、アーベル様のお手伝いはしっかりこなしました。

 正直肥料を作るって言われても私にはピンとこなかったけど、その辺り二人にはちゃんと頭に入っているらしくて薬草やら何か分からない石を粉々に砕いたものやら入れて煎じていて。……これ、童話とかに出てくる魔女の儀式みたいだな、とかこっそり思ったり。


 私はこれ以上何も出来ないので大人しく見守っていると、数時間後にはとろりとした緑の液体が出来上がっていた。

 ……凄く、緑です……。

 これを畑に撒くのかあ……土の色が凄い事になりそう。


「これは明日届けようか。今日はもう遅くなってしまったし」

「そうですね。けど、これは根本的な解決にはなりませんよね。あくまで対処療法のようなものでしょう。まあ、言った所で無駄だと思いますが」

「まあまあ」


 リーンは調合した肥料……というか栄養剤? を瓶に注ぎ入れながら、あまり愉快そうではない顔。アーベル様も宥めてはいるものの、リーンの言葉には否定しなかった。

 ……根本的な解決、それが出来る日が来るのか、私には分からない。肥料も、病の薬も、あくまで起こった事に対する処置でしかないのだから。だからこそ、アーベル様を頼る人が後を絶たないのだと思う。


 難しいな、と溜め息をつきつつ窓の外を見ると、すっかり空は黒ずんでいて。


「あっ晩御飯作ってない」

「君は馬鹿か、最後の方観察してるだけだったろう。晩御飯作る時間はあった筈だ」


 調合続きでお腹が空いていたらしいリーンが不満げな顔。此方の手伝いにかまけて君の役割を放棄してどうするんだ、と視線で咎めて来るので、強く反論出来ずにぐぬぬと押し黙るしかない。

 ……それでも、私としては二人のお手伝いをしたくて。


「君が手伝わなくとも、これくらい調合出来る。寧ろ突っ立っていては邪魔だ」


 私の頭の中で考えていた言い訳を鼻で笑うかのように否定するリーンに、自然と、口許に力が入って唇を噛んでしまう。

 泣いたりしたらリーンにまた馬鹿にされるし、実際邪魔になっていたのかもしれないと思うと、苦しい。別に調合は私なんて要らないだろうし、素人の私がちょろちょろしていたら気が散るのかもしれない。

 だから、きゅっと眉を寄せて押し黙る事で、リーンの苦言を受け入れるつもりだった。


 ただ、肝心のリーンが此方を見て、固まっていた。リーンの髪と同色の瞳を瞠って私を捉えている。文句を続けて言う表情ではないのは、確かだった。何を考えているのかはさっぱりだけど、あまり私にとって良い事ではないでしょうね。

 ……これ以上苦言を呈するつもりもないのなら、丁度良かった。これ以上言われると、多分本気で泣きかねないもん。


「……ご飯の準備してくる」


 余計に文句を言われない為にも、と私は逃げるようにその場を後にしてキッチンに向かった。




 パンは焼いてあったり野菜はこの間収穫したばかりだから洗って新鮮なものをサラダにして、後は丁度牛乳を分けてもらったばかりだったから干し肉と鶏ガラで取っていた出汁でクリームスープに。

 スープにリーンの嫌いな人参を入れたのは細やかな反抗である。リーンだけ多目に人参をよそってやろうと心に決めていた。


 手早く用意した晩御飯だったけど、二人共文句は言わなかった。ただ、会話の一つもないけれど。


 いつもなら和気藹々とまではいかないけど好き嫌いの多いリーンが献立に文句言ったり、そんなリーンを「よく食べないと大きくなれないよ」と宥めたりするのだけど、今ばかりは無言になってしまっている。リーンですらスープを見ても眉をひそめるだけで、直接文句は言おうとしなかったし。


 この居た堪れない空気は私のせいだと分かっているので、尚更気まずい。

 陶器のスープカップにスプーンが当たる度にカチャカチャ音が鳴るので、気まずさアップ。……私が悪いのに。


「……そうだ、二人とも、ちょっと良いかい?」


 重苦しい空気の中ご飯を食べ終わってきたかな、といった所で、アーベル様が空気を変えるようにそんな一言。


「明日、二人にお使いを頼んでも良いかい?」


 多分私達に気遣ったんだろうな、という趣旨の提案。

 ただ、リーンは聞いていなかったらしく驚いていたけど、私と視線が合った瞬間顔ごと逸らすのでやっぱりまだ怒ってるんだ……とへこみそう。ちゃんと「邪魔してごめんなさい」って謝るべきなのに、上手く切り出せないし。


「依頼人に今日作った肥料を届けて欲しい。二人に頼めるかい?」

「そんなの僕一人で行ってきますけど」


 リーンは私を見ようともせずに返事しているものの、それをアーベル様が良しとはしなかった。


「二人に、行って欲しいんだよ。お小遣いもあげるから出掛けておいで。……大丈夫、知らない所に行かない限り危険はないから」


 つまり、これは仲直りしてこい、という事なのかな。いつまでもいじけてる私と、正論しか言わないリーンに仲直りの機会を与えようとしているみたい。

 ……多分、私が中々謝れないのが原因なのだと思うけど。早く元通りになりなさいって事だろうな……アーベル様も困らせてるし、私だって早く仲直りしたいけど……。


 ちらりとリーンの方を窺っても、無表情のままそっぽを向かれてしまう。リーンは間違った事は言ってないから、私がちゃんと勇気を出さなきゃいけないんだ。


「返事は?」

「……はい」


 リーンは渋々返事をして、私も躊躇いがちに同調する。……本当に仲直り出来るのかな、私。

 溜め息をついて、私は食べ終わった皿を下げるのに専念する事にする。


 此方を見ようとしないリーンのスープは、残さず綺麗に平らげられていた。

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