第九話:復活
コトコトとスープを煮込む音がする。ジャガイモの匂いがするということはポトフを作ってるんだろう。自分の仲間であるあの二十歳の割には爺くさい男が……
「ここは……」
宿屋の一室。真新しい畳の匂いがやけにしている。腕に巻かれた包帯を見て自分は現実に生きているのだと感じられた。
「空の国だ。よく寝ていたな、瑞貴」
自分と同じ黒の目が覗き込んでくる。それは半分呆れているようだ。そして覚醒した!
「ヤンロン!」
自分に事あるごとにとことん説教をしてくる理屈人間。自分の親でさえここまで言わなかったと思ったことなど星の数ほど。しかし、誰よりも頼りになる仲間だ。
「まったく……、俺が戻ってきたからよかったものの、もし戻ってこなかったらどうするつもりだったんだ?」
早速小言が始まりそうだ。言い訳しても仕方ないと分かっているのだが、してしまうのはまだ自分が子供だから。
「いや、何とかなるとは思っていたんだが……」
それ以上は言わないだけ学習してきた。自分が感情人間じゃなかったことが救いようだ。
「それにだ、あのお方を危険な目に合わせていたとは、未来の覇王が聞いてあきれるというもんだ」
説教モードにエンジンがかかりだした。しかし、瑞貴はふと疑問を声にした。
「あのお方? おい! おてんば娘はどうしたんだ!」
「おてんば娘?」
瑞貴の突然の慌てようにもヤンロンは落ち着いている。それと対極的に瑞貴は説明した。
「そうだ! いかにも体育会系の怪力おてんば娘だ!」
「それって私のこと?」
「そうだ、こんな感じの……!」
次の瞬間、スズナの強烈な拳打が瑞貴目掛けて振り下ろされたが、瑞貴はあっさりそれを避けた。
「何故避ける!」
「当たったら痛いからだろう?」
「当たりなさいよっ!」
無事に再会した二人はやはり普通に感動をかみ締めるわけにはいかなかった。ヤンロンもこれが自分に逆らうことを否とさせない目をして命じた少女だとは思えなかったが……
そして数分の攻防の後、瑞貴はスズナの拳を止めて尋ねることにした。
「おい、お転婆娘。お前名前は?」
「知ってたんじゃないの? スズナって自分で言ってたでしょ?」
転送陣に入る前、確かに自分の名を瑞貴が呼んだことは覚えていた。しかし、瑞貴は真剣な表情で聞く。
「違う、正式名だ」
「うっ!」とした言葉が思わず出そうな表情でスズナは小さな声で答えた。
「……スズナ・メイリン。幻想の国の女神、メイリン様の子孫よ……、一応……」
瑞貴は爆弾が投下されたような衝撃を受けた! 女神の子孫、しかも名高きメイリンの子孫だというのだ!
「……どおりで、操られなかったはずだよ、お前が……」
瑞貴は全て納得した。メイリンの子孫というなら、しかも元々の魔力が高いスズナならば助かる可能性は間違いなく高かったのである。
しかし、スズナはどうして自分だけが助かったのかが分からずにいた。スッと瑞貴から拳をはなし、ヤンロンに向き合うとその理由を尋ねる。
「とりあえずヤンロン、幻想の国に何が起きたか教えて欲しいの」
そして、ヤンロンの口から全てが語られるのだった。それはとても長い長いいきさつが……