第七話:死なせない
キスの味はレモン味。一体どこの誰がそんなことを言ったのか、人生初のキスでそんなことを考えたのはおそらく自分だけなんだろう……
「あ……」
目を閉じてはいろと言われたが、それはあくまで時空間の中で酔わないため。
決してこの男にキスされるためではなかったはずである。
そしてやはりお決まりで、スズナは思いっきり瑞貴の頬を殴り飛ばした。
「お前は……、お前は何をした……!」
真っ赤な顔を向けてスズナは瑞貴を睨み付ける。
目は少し涙目だということも自分の感覚にあった。そして、相変わらずしれっとした顔で瑞貴は答える。
「だから悪いって言っただろう?」
「悪いで済むか……!」
もう一発殴ろうとした時、瑞貴の体はぐらりとスズナの方に倒れてきた。
「ちょっと、瑞貴……?」
突然のことにスズナは驚くが、その体の熱さと呼吸で気づいたのだ。
「あんたすごい熱じゃない! 一体どうして!?」
「……力を使い過ぎた」
それだけ告げれば十分だった。
しかし、介抱する時間はなかったのである。自分達の追っ手が城の中にまで入り込んできたのだから……
「し……ね……」
「アイコ! ナナ!」
先刻、瑞貴が使った高等魔法でさすがに動けなくなっていたはずの友人達はボロボロになりながらも再度自分達に襲い掛かってくるのだ。
急いでスズナは瑞貴を背負い転送陣のある部屋まで走ろうとしたが、ギュッと瑞貴はスズナの肩を掴み、熱っぽい苦しそうな声で告げる。
「おてんば娘……、俺を気にせずさっさといけ」
「あんた何言って……!」
「だったら戦え。ここは聖地だ、あいつらもそこまでは力は奮えないだろう」
邪悪なものを寄せ付けない城。しかし、彼らはその力を打ち破りこの城に入り込んだのである。
多少の力の制御はあるにしても、危険なことには違いない。
「ふざけないで! あんた背負ったまま戦えないわよっ!」
瑞貴の盾になるように、スズナは相手の出方を伺うがそれに瑞貴は怒鳴った!
「死にたいのかっ! 転送陣はすぐそこなんだ! バリアを破る力さえ残しておけば良いなら簡単だろう!」
「それも嫌だって言ってるの! あんたは覇王になるんでしょう! こんなところで絶対死なせたりはしないっ!」
スズナはきっぱりと言い切った。ここまできてたとえ自分一人だけ生き残っても、瑞貴を残していって後悔することだけはしたくなかったのだ。
「さっきまで弱いとしか言わなかった癖によ……」
僅かばかり瑞貴は微笑を浮かべた。
「し……ね!」
再度、友人達が襲い掛かって来る。スズナはその攻撃をかわしながら、少しずつ転送陣の部屋へと向かっていく。
「くっ!」
拳打が肋骨にあたるが倒れている場合じゃない。
そして、スズナは瑞貴に告げた。
「転送陣まで走る! それぐらいの振動には耐えなさいよ!」
そう叫んでスズナは友人達の群れを飛び越した。
しかし、無数の魔法弾がスズナを傷付ける。
「いたっ!」
自分はここまで辛抱強かったことなどなかった。
だが、せっかく生き残っている瑞貴をこのまま死なせたくないと思った。
「きゃあああっ!」
並べてある石造りの女神像がスズナ達に投げられ粉砕する。
そしてそれを避けていくうちに、友人達に囲まれていき逃げ道は消えていく。
「囲まれた……!」
じりじり詰め寄ってくる友人達。今度こそ逃げ場はない。
「スズナ……、上出来だ」
にやりと笑い、二人の体は光に包まれる。
「えっ!」
飛んだかと思えばそこは魔法陣の中。二人は一気に国境の近くまで転送された。