第六話:悪い……
「私達にでも出来る脱出方法か……」
スズナは本を前にしてじっくり考え始めた。おてんばはやっていても読書量は人の三倍だ。
覇王を支える魔法使いになるには、それ相応の頭脳は持ちたかったのである。
「その辺の本は俺も全て見たことがある。少なくともこの国には今、外に出られないように高等魔法が張り巡らされている。簡単に言えば触れた瞬間に死んじまう様なやつな」
「突き破ることは?」
「それは可能だ。一転集中型はお前が得意だろ?」
普段のおてんば振りから瑞貴はスズナの特技を見破っていた。
「じゃあ、後はどうやって国の端まで行くかね。だったら転送魔法陣があるかもしれない」
「現代に使われているものじゃ待ち伏せされてるだろう?」
「だったら古代のものは?」
スズナは古代地図を広げ始めた。かなり年季が入った分厚い古書は見ただけでもうんざりするが、スズナは抵抗なく調べ始めた。
だが、ここで問題が発生する。転送魔法陣の位置は分かっても、何処に通じているのかが瑞貴に理解出来ない理由があるからだ。
「古代文字か……、さすがに所々しか分からねぇな……」
学年一優秀な少年も数千年前の文字は解読出来ない。
しかし、スズナは読んでいくうちに瞳を輝かせていく。希望はここにあったのだ!
「瑞貴! これならいける! メイリン様の城に魔法転送陣がある! あんたの時空魔法ならそこまで飛べるでしょ!?」
「お前、解読したのか!?」
スズナがそんなスキルを持っていたことにさすがの瑞貴も驚いたが、彼女は当然だと胸を張って答えた。
「当たり前よ! 私は覇王様に全ての力をささげるの! この程度の古代文字くらい解読できなくてどうするのって言うの!」
「なるほど、俺のためか」
瑞貴はにやりと笑った。自分が覇王を目指しているということは教えたはずだ。
それを慌ててスズナは訂正する。
「違うわよっ! 私は『覇王様』に全てを捧げるの! あんたみたいな弱いのなんかに死んでも私は服従しない!」
必死に訂正するスズナに、瑞貴は肩を震わせて爆笑を堪える。どうやら自分が思ってた以上にこのおてんば娘は面白い存在なようだ。
「ああ、それでいい。とりあえずおてんば娘、しばらくの間は力を溜めておけ。そして何があっても抵抗するな。約束出来るか?」
黒曜石の目が真剣にスズナを見据えるが、スズナはその目に威圧されまいと必死に抵抗し力強く頷いた。
「分かったわ。頼んだわよ、瑞貴」
「よし、それじゃあ目を閉じてろ。一気に飛ぶから絶対目を開けるな。開けたら時空間で酔うからな」
時空間を飛ぶ時の景色ははっきり言って歪んでいる。それだけ気分が悪くなる可能性もありうるのだ。
それに頷き、スズナは目を閉じると瑞貴は彼女の肩に手を置いて耳元で囁いた。
「それと、悪い……」
次の瞬間、瑞貴はスズナに口付けていた。
そして、二人はその場から消えたのである……