第五十二話:時空魔法タイプ
「さて、どうしましょうか」
光の女神であるセディは美しく溜息をついた。とはいえども、ただの溜息でさえ美しく見えてしまうのだ。
「グランド帝国の魔導師なんだ。ドール化してるのに俺達に手加減しろという方が無理だろ」
二刀流の神兵隊長、ヤンロンは冷静に判断する。
「旦那の長い説教の幻術でもかけてみます?」
ウォータータウンの御令息、幻術使いのリックは脳天気に答えた。
「冗談はよせ。それよりこの国の魔導師達はスズナの国よりハイレベルだと聞く。気を抜くんじゃないぞ」
「そうね。じゃあ、少し動きを止めておきましょうか」
セディは呪文を唱え始めた。
「ねぇ瑞貴、サタンって一体何物なの?」
「闇界の権力者。メイリンの血筋の癖して伝えられてないのか?」
刺のある言い方だがスズナは言い返さず答えた。
「伝わってるわよ。だけどサタンは覇王が封印ではなく滅ぼしたと聞いてるわ。そいつが蘇ってるなんてありえない話でしょ」
「へぇ、やっぱりただの馬鹿じゃないのか」
瑞貴は改めて感心した声をあげる。それに反論してやりたいがスズナはぐっと堪えた。
「なら話は早い。闇界に死者を甦らせる禁術を使った奴がいる。そいつらが今回の騒動の元凶だ。
まあ、サタンを締め上げたところで吐いてくれるかは謎だがな」
「その前にサタンを倒せるかでしょ? 瑞貴の強さじゃサタンには敵わないこと確定じゃない?」
瑞貴は一度止まった。そしてスズナにげんこつを落とす!
「いったあ! あんた普通女の子の頭にげんこつ食らわす!?」
「うるせぇ! お前は会うたびに人を弱いとしか言えねぇのか!」
「弱いじゃない! すでにカイトより弱いことは確定してるでしょ!」
「アホ! 人の魔力ぐらい感じられるようになれ! お前と初めて出会ったときの五倍にはなってるだろうが!」
「あんたあの時はフラフラだったじゃない! 人の魔力まで吸い取らなかったら時空魔法が使えなかったんでしょ!」
カイトはピクリと反応した。
「瑞貴、お前時空魔法タイプか?」
「一応な。ただ、こっちの世界じゃ時空魔法は使いづらいからな」
カイトはそれを聞いて驚いた。しかし、スズナにはその意味が理解できない。
「カイト、何驚いてるの?」
「…スズナ、時空魔法タイプが少ない数だと言うことは知ってるか?」
「まあね。だけどそれが何なの?」
カイトは一つ溜息を付いた。少しは賢い少女だと認めていただけにその返答には呆れるしかなかった。
「いいか、ドール化した国では基本時空魔法は無効化されてしまう。国自体が呪われる魔法だから当然時間の類も相手に握られてしまうんだ。
つまり時空魔法を使えるのはよっぽど魔力が高くなければ無理というわけになる」
「ふ〜ん。だけどそれによって瑞貴の魔力も下がるわけ?」
その質問には瑞貴が答えた。
「確かに時空魔法タイプにとってはドール化した国は居心地は悪いさ。
だけどな、下げておかなければ今頃俺達の周りは敵だらけになるぞ?」
「時空魔法を扱える者はドール化を起こした術者を倒せる可能性を秘めてるからな。術者なら当然自分が操る人形で相手を狙うのが筋道だ」
瑞貴とカイトの説明でスズナはあらかた理解した。
「じゃあ、セディ達と別れた理由って…」
「あいつらは囮を買ってくれた。俺達はその間に術者を叩くってわけだ」
瑞貴はスズナの腕を掴む。
「カイト、そろそろ飛ぶぞ」
「了解した」
カイトが瑞貴の肩に手を置いた瞬間、三人はその場から消え去った。