第五十一話:対面
「カイト!」
「スズナ、お前何しに来た? スマン、足手まといにか……」
「何ですってぇ!!」
カイトがピンチだと思ってくれば、早速この憎まれ口である。心配はしていたと言ってやるのも吹き飛んだ。そしてカイトの視線は瑞貴に向けられた。
「で、そのお連れ様が瑞貴殿か。確かに魔力だけでも覇王の素質は高いようだな」
口元が微かに釣り上がる。絶対的な自信を持つ男の顔、瑞貴はそれをカイトに向けた。
「だが、ガキ加減はスズナとどっこいどっこいか」
「なめるな、俺は限りないSを求めてる人種だ。多分あんたといい勝負だぜ?」
十数秒の目と目のやり取り。それがすんだ途端カイトは爆笑した。
「ハッハハハハ……! 気に入ったよ、覇王! 改めて、俺はカイト・グランド。医学大国グランドの皇子だがただいま家出中だ」
「俺は熬瑞貴。天界の東海青龍王の息子だがただいま家出中だ」
スズナはこの時ようやく気付いたことがあった。この二人は似ているのだ、ちょっとした言動や空気が……
「じゃあ、一緒に闇界に来てくれ」
「それはダメだ。俺には婚約者がいるからな」
即答。あくまでも愛がいないとダメらしい。
「だったらその婚約者も連れて……」
「危険な目に遭わせるのもゴメンだ。あんなに可愛くて可憐で儚くて愛おしくて」
以下省略である。付き合っていたらキリが無いのでスズナは適当なところでそれを止めた。
「もういいから……。瑞貴、このとおりカイトには愛ちゃんがいる限り動けないのよ。だからカイトはこの場だけ力を貸してもらって」
「ダメだ」
こちらも即答である。そのワガママぶりにスズナは頭を抱えて返答した。
「ダメって、あんたねぇ……」
「全体を守って一人の女を幸せに出来ることがある」
少しスズナの心が揺れた。確かに瑞貴の言うことは一理ある。
「だが、それで一人を不幸にすることだってあるだろう?」
「ああ、だけどあの子が求めてたのはお前が巣立つことだろう?」
言われて気付くことはある。愛は守られることよりカイトの幸せを祈っていた。何より彼女は気付いていたのだ、本当はカイトが世界を歩きたいことを……
「罪滅ぼしなんてあの子が求めてるものか?」
瑞貴はさらに核心に迫っていく。
「誰かに聞いたのか?」
「ああ、風の精霊が語ってくれた。お前はあの子を助けることは出来たが、あの子の両親も兄弟も助けられなかった。嵐の奴隷船の中、お前はあの子だけ助けるのが精一杯だったんだろ?」
しかし、カイトは首を横にふった。
「……俺は気まぐれで愛だけを守って、愛の両親も何も助けようとはしなかったんだ」
本当に気まぐれだった。自分は正義の味方等ではない。これまで奴隷船なんていくつも見過ごして来たのに、ただ愛だけを助けたくなったのだ。
「だけど愛ちゃんはカイトを恨んでないよ?」
「スズナ……」
「それに命を助けられて感謝している」
「しかし……」
「しゃきっとしなさいっ! あんた愛ちゃんの婚約者でしょ!」
襟首を掴み今にも殴り飛ばしそうな勢いでスズナは突っ掛かった。
「愛ちゃんはね、あんたの幸せしか願ってないのよ! なのにいつまでたってもうじうじするな! バカカイトっ!!」
いつまでも悩んでいるカイトを見てスズナは逆切れした。カイトが望んでいることはもう分かっているからだ。
「カイト、とりあえず闇界へ乗り込む話は後だ。まずはサタンをぶっ飛ばさないとな」
瑞貴は一度話題を切り替えた。あくまでもこの国にいる理由は同じだからだ。
「……分かった。全て片付かなければ話にはならないしな」
スズナに掴まれていた襟元をすっと離しカイトは立ち上がる。
「スズナ」
「いっ!!」
スズナにげんこつ一撃。
「遅れるなよ、覇王は強い」
カイトに不敵な笑みが戻っていた。