第五十話:崩壊
天界、闇界の者の寿命は長い。特に闇界の中には数百、数千年の歴史を生きているものすらいる。
つまり、覇王を見たものも少なくはないということだ。
「ルチル? 何なのそいつ」
聞かされた名前にスズナは尋ねた。
「お前の国を滅ぼした連中の一人だよ。闇魔法の使い手で闇界でも多少の権力を持つ貴族だ。まあ、グランドの血を引く奴の敵ではないだろうが、奴の主が何の策もなく戦わせるとは思えない」
瑞貴の勘は当たっていた。
「あらあら、幻術の類も跳ね返されるとは思ってはいなかったけど、グランドの子孫にしては弱いのね。あなたに顔はよく似ていたけど、実力は彼の放が断然上のよう」
カイトは膝を付いていた。ルチルがかけて来た幻術は打ち破ることは手易かった。しかし、この女の攻撃力は体を保つリミッターを解除しているかのようだ。
「……お前の主は随分長く仕える部下を簡単に切り捨てるようだな」
カイトは皮肉を込めて言うが、
「いいえ、それは違います。主は力の解放を手助けするだけ。例え私の体が壊れようとも普通の人間のように治らないことはない。どのような場面でも命があるだけで私は主の力で復活できる」
ルチルは優美な笑みを浮かべた。
「さすがは化け物か。先代覇王はあまり人の形をした生き物を殺したくはないという考えだったらしいな」
「ええ、その甘い考えがなければ闇界を統べることも出来たでしょうに」
言っていることは正論。そうでなければ封印という形で覇王は戦いを終わらせることはなかったはずだ。
「だけど私達は滅ぼされなかった。でもあの子達はもう生きてはいない。リスクファクターのみを葬れば闇界が全てを手にする。主もそれを望んでおられる!」
「魔封結界!!」
強力な魔法をカイトは防ぎ反撃に出る!
「体術の方は苦手のようだな!」
「品のないことはするべきではないわ」
ルチルの張ったバリアを素手で打ち砕き、そのまま顔面に入るかと思われたが、
「……! 幻術か!」
「そのとおり」
光の雨がカイトの体を強く打った!
「くっ!!」
「さようなら」
ルチルはカイトの腹部に手を当て、消滅の魔法を放った。
「……消えたわ」
跡形もなく、カイトは消え去っていた。幻術にかかっている感覚すらルチルにはない。
「終わったようだな」
「主……」
ルチルはひざまずく。自分の主であるサタンが目の前に現れたからだ。
「ご苦労だった。しばし休むがいい」
「勿体ないお言葉……」
ルチルは深々と頭を下げる。
「何、このままお前は永遠に眠るのだからな」
「何を!!」
世界が砕ける! 自分が消滅していく!
「崩壊術、つまり自然の摂理……」
サタンの顔がカイトへと変わった。
「お前は強者に負けたんだ」
ルチルはその場に崩れ落ちた。