第四十九話:戦火上がる帝国
しばらく会っていなかった瑞貴はどこか色香が漂っている気がした。初めて会った時は何の雑じり気もない澄んだ水のような感覚さえ覚えたが、今は……
「瑞貴……」
「何だ? 相変わらず間の抜けた顔だな」
出会って早々憎まれ口。いつもならここで鉄拳の一つは飛んでいたはずだが今日はない。それに瑞貴は目を丸くした。
「おい、何か反応ぐらいしたらどうだ?」
スズナを小突くが何も答えない。さすがの瑞貴もこれには手付かずとなる、はずがない。
「そうか、だったら大人しくしとけ」
スズナの頬に手を当て、その唇を奪おうとした瞬間!
「ふざけんなっ!!」
間一髪、瑞貴はスズナの鉄拳から逃れた。
「あんたはいつになったら私を探しに来るのよっ! こんなピンチにならないと現れる気すら起こらないのか!!
揚げ句の果てにはまたセクハラしやがって! こっちがどれだけ心配したと思ってんのよ!!」
「無茶苦茶だな……」
とは言いながらも、その分だけスズナが心配していたと思えば悪気はしない。多少の罪悪感というものは瑞貴にも存在する。
「何とかしなさいよっ! カイトが敵中に一人であの爆発の中に飛び込んだんだから!」
「カイト? カイト・グランドか!?」
「そうよ!!」
スズナの鉄拳を避けながら瑞貴はヤンロン達の方を見た。感じたことは同じようである。
「スズナ、そいつが揃ったら今度こそ闇界に乗り込む! お前がカイトを引き寄せたんだ、絶対に仲間に加える」
パシンという拳を受けた音とともにスズナの気はおさまった。瑞貴のたった一言で全ては動き始める。
「ヤンロン、セディ、リック、スズナ! カイトを助けて闇界に乗り込む! 覚悟していけ」
「オウ!」
士気は上がった。
その頃、爆発が起こったグランド帝国でカイトは余裕で戦っていた。
「し……ね……!」
「あまいな」
ドール化した下級魔導師などカイトの敵ではなかった。次々と襲い掛かってくる敵を簡単に倒していく。
「さて、今回の根源を叩いておきたいがどうやらまだ出て来る気配はないか……」
瓦礫の山にすっと立ち、神経を集中させて敵の動向を探る。おそらく高見の見物を決め込んでいるであろう人物に。
「……城か。王侯貴族趣味でもあるのかね」
「違います。王族たるもの、格式ある城に住むのが定石かと」
紫のロングヘアーに青い目、間違いなく地界の空気を持たない女はカイトの背後に立っていた。藍色のベールと魔導師の服、それだけでも女が強いと分かる。
「確かに、あんたが一兵士ならそれだけの器はありそうだ」
カイトは女を見据えた。攻撃を仕掛けてくる気配はない。
「とりあえずこの国のドール化を解いてくれないか? 医者とはいえ、さすがに国中の奴を全員介抱する魔力は持ち合わせていなくてな」
「フフッ、不思議ね。国を滅ぼす魔力はお持ちなのに」
「医者は人間の命は大切にする人種なものでね」
カイトは微笑を浮かべた。ここでこの女を倒すことは出来る。しかし、その上に君臨する彼女の主は間違いなくカイトを越えたレベルだ。力は温存しておきたかった。
「そう、主はあなたが使えるなら生かしておくようにとおっしゃっていましたが、どうやら相いれない思考をお持ちのよう。ここで死んでいただきます」
戦火が上がった。