第四十六話:ふりだしに戻る
カイトが愛と出会ったのは、嵐の奴隷商船から愛を助けた日。
焦げ茶色の髪は雨に濡れ、黒い瞳は涙が溢れ、肌は傷だらけだった。
しかし、カイトは愛に引き付けられた。
「大丈夫、絶対に死なせはしない」
カイトは五歳だった愛を抱えて人買い達を次々と捩伏せていった。そしてすべて片付け終わり、愛に向かっていうのだ。
「名前は?」
「……愛」
涙を流しながら愛は答える。
「そうか。愛、この嵐を止めてくれるか? このままだと船が持たなくなる」
「……はい」
嵐はおさまった……
「カイト、カイト!」
「ん?」
スズナの呼ぶ声にもあまり反応を見せない。愛とせっかく会えたというのに、また離れることが嫌だというのは一目瞭然。それも二十五歳の男が十二歳の女の子と離れたくないというのだから……
「もう、愛ちゃんと離れたくないのは分かるけど、精霊使いがカイトは動かないといけないって言ってるんでしょ? だったら行くしかないんじゃない?」
もっともである。もともとグランドの血を引くカイトは、スズナと同じように国の危機には立ち上がるようにとは言われていたはずだ。
それが嫌で家出したのだろうが、愛を置いて長い旅に出ることはもっと嫌なのだろう。無気力にしかならない。
「スズナ、俺が力になれという覇王はどんな奴なんだ? 俺以上に強いのか?」
カイトの問いにスズナは腰を下ろして話始めた。
「そうね、まだカイトより弱いと思う。だけど誰よりも覇王になることを望んでいる、敖瑞貴はそういう奴よ」
付け加えるならまだいろいろあるが、今のところは抑えておくことにした。
「敖……敖……、竜王の血筋か。面白い奴だ。天界の王家が地界の覇王の称号を求めるなど普通じゃないな」
「だから私は力になろうと思った。あいつを絶対覇王にしたいと思った」
スズナは真剣に答えた。理屈などいらない、スズナは瑞貴だから覇王になる資格があると直感したのだ。この世界の全てを救ったもの、その伝説を完成させる器が瑞貴にはあると思った。
「成程、そいつに惚れてるわけだ」
「違うわ、力になりたいの。メイリンが覇王の翼になったように」
恋とは違う感情。スズナはあくまでもそう言い切るが、これから瑞貴と再会した時に何を言えば良いのかは予測は付かなかった。
「自分の気持ちにまだ気付かないうちは子供だな。とりあえず会うだけは会ってやる。敖家の覇王が俺が納得するほどの器なら力は貸してやるさ。だが、愛がな……」
ふりだしに戻るである。愛が心配なのは分かるが、危険な場所に連れていくつもりなど毛頭ない。そして、愛も着いていくべきではないとあの時言っていたのだ。
「瑞貴……」
未来の覇王に全てを任せるしかないようである……