第四十二話:魔導師リック
軽工業が発達する港町、名をウォータータウン。人口自体は少ないものの、ちょっとした出稼ぎには持ってこいというのがこの町の特色だ。
そして、その軽工業の町を束ねる長はやはり存在している。それがシルフィード家だ。
「これはこれは瑞貴様、ヤンロン様、セディ様、お久しぶりにございます」
初老の男は深々と頭を下げた。シルフィード家の執事、セバスチャンである。
「ああ、久しぶりだ。あいつはいるか?」
瑞貴の問いにセバスチャンは静かに首を横に振り答えた。
「坊ちゃまは町にお出かけです。いつ戻られることやら」
「相変わらずか。気配まで消しているようだしな」
相変わらず面倒な奴だと瑞貴は溜息を付いた。
「心あたりがあるといいが」
「そうでございますな、おそらく酒場を転々としていることでしょう。特に最近では「コロン」という酒場がお気に入りだそうで」
セバスチャンの読みは見事だった。まさにそこにいたのだから。
「コロンか。行ってみる」
三人はその場から消え去った。
「いつになく長居だな。今日はどこかの彼女と待ち合わせかい?」
「いや、王子様方がここに来ると思ってね。ただ、女神様もやってくるよ」
苦笑しながら青年は答えた。自分から出向けばいいのだが、それはそれでつまらないらしい。
「それは楽しみだ。女神様はどんな酒が好みだい?」
「強いからなぁ、ウォッカをブランデーで割るぐらいでいいんじゃないか?」
「それは見事な酒豪だ。だったら甘めのものもたまにはいいだろう」
数種類の瓶をマスターは吟味し始めた。そしてフルーツもいくつか取り出す。
「さぁ、後はお客様を待つとしようか」
「だがその前に招かれざる客も来たようだが」
乱暴に蹴り開けられた木の扉は開けた当人達の荒れ模様を表していた。
「シルフィード・リックはいるか?」
「俺だ」
リックは簡単に名乗り出る。
「そうか、随分な優男じゃないか」
「そりゃまだ十九歳なんで」
いたって真面目にリックは答える。
「ガキが酒場か」
「この国は十八から酒が飲めるんだ。せめて半人前と言ってもらいたい」
飄々とした態度は男の勘に触った。さっきから間髪入れずに返してくるのだから。
「そうか、ならば男として扱おう。だがその前に聞く。テキサス一家に殴り込み、大切な姫を連れ出したのはお前か?」
「ああ、あの子は国に帰りたいといってたから手助けをしたまでだ」
答えた瞬間、銃弾がリックの頭を貫通した!
「そうか、これで報酬はたんまりだ。テキサス一家から姫を連れ出した極悪人を撃ち殺したんだからよ」
「へぇ、俺を大人として扱うってそういう扱いか」
頭を打ち抜かれたはずのリックが笑う。それどころか血の一滴すら流れていない!
「なにっ!!」
「残念だが俺に銃弾は効かないんだよ。魔導師なんでね」
それを聞いて店のマスターだけが驚かなかった。