第四十話:風を纏うもの
黒のマントを被った魔導師は非常に気分が悪くなるような威圧感をスズナに叩き付けてくる。それに加えて毒の霧。出来ることならば一刻も早くこの場所から去りたいものである。
だが、目の前にいる性格の悪い医者には何を言っても無駄なのだろうが……
「スズナ、この三分間で相手の動きをよく観察しろよ。ついでに俺の戦い方もだ」
どこまでも不敵な男だとスズナは思った。しかし、おそらく動けば三分間も息がもつとは思えない。
「カイト、その必要はないわ」
スズナは魔力を解放した。
「助けてもらった借りをここで返す! こいつぐらい二分で片付けてやるんだから!」
スズナは暗黒導師に殴り掛かっていくが、その動きは見破られていた。
「口ほどにもない」
「きゃあ!!」
スズナは軽く弾き飛ばされ、カイトは岩場に激突寸前で受け止めた。
「熱くなって迷惑かけるな。さすがの俺でも一秒で奴は倒せん」
「だけど!」
「いいから見てろ。魔導師を相手にする時は相手を崩すのが鉄則だ」
そう告げた瞬間、地割れと無数の岩石の弾丸が暗黒導師に襲い掛かる。
「うそっ! 二つの魔法が同時に起こるの!」
「いや、正確には一つだ。混ぜてるだけの話だからな」
カイトは瞬時に暗黒導師に殴り掛かる。
「うまい!」
安定感のある戦い方とはこの事なんだろう。だが、相手はカイトがすぐには倒せないというだけあり体術の心得もあるようだ。カイトの拳を紙一重でよけていた。
「それでもダメならトラップを張れ、または魔力で相手を圧倒しろ」
カイトの両手足に風が巻き付く。それを身に纏って空を蹴りあげた。
「遠距離攻撃か。ならば返してやる」
暗黒導師は呪文を唱えカイトの魔法をスズナに返した。
「スズナ! そいつを受けろ!」
「ええっ!?」
防御の構えだけしてスズナは攻撃を受けた。しかし、ダメージはない。むしろ力すら沸いてくる。魔力がスズナに付加されたのだ。
「俺がしてやれるのはここまでだ。あとはお前が何とかしろ」
そう言ってカイトは息を止め、結界を張って座り込んだ。間違いなく時間はない。
「カイト……、ありがとう」
スズナは力を解放した。それは間違いなく今までのスズナの力とは桁違いだった。風が彼女に味方している。
「いける。これならあんたを確実に仕留められる!」
ふわりと風の力を身に纏い、スズナは暗黒導師に突撃した。
「先程と変わりない戦法だな」
「でもあんたはとっくにカイトの策にはまってる」
暗黒導師はスズナを弾き飛ばそうとしたがそれが出来ない。それがカイトの策だった。
「拳に全魔力を集中。それを相手に叩き込むっ!!」
「ぐはっ!!!」
勝者は決まった。