第三十九話:空気玉
目の前にいるロリコン医者の本気を一度でも見てみたい、スズナはただそう願う。魔法使いのたまごにとってカイトの存在は……
「歩く教科書って本当に存在するのね」
「言い方を改めろ。せめて有能な医者ぐらいにな」
売り言葉に買い言葉。それを見事にやってのける二人はお山の大将に会いに行こうというモードだった。
「だいたい、カイトは出し惜しみしすぎてるのよ! そういうのって厭味にしか取られないわよ!」
「弱者相手に全力で戦うほど俺は凶暴じゃないんだよ、お転婆とは違ってな。何より常に全力で戦う奴は大抵バカか弱者だ」
「なんですってぇ!」
久しぶりだと思った。少し前まで瑞貴とこうやって喧嘩していたのにもう遠い感じがしている。
その時、若干の空気の変化に気付いたカイトはピタリと止まった。どうやら敵は近いらしい。
「……そろそろ気を引き締めろ。ここのお山の大将だけは俺も少々力を解放しなければならない。それとスズナ、お前にこいつを渡しておく」
「空気玉?」
「なっ! 知ってたのか!」
天地がひっくり返ったような表情をカイトは浮かべた。
「あのね、私はこれでも優秀だって言ったじゃない! いい加減にしないと本気で殴るわよ!」
そういいながらストレートを繰り出し、さらに回し蹴りまで繰り出すがカイトは軽々とよけた。
「まだまだ甘いな。とりあえず、そいつはまずくなったら飲め。効果は二時間だ。その間に俺が奴を倒せない場合は命を諦めろ」
カイトは真剣な顔をしてスズナを見る。さすがに今回は本気らしい。
「……分かったわよ。だけど、戦うからには勝ちなさい。私はこのまま死にたくはない」
「覇王のためか?」
「未来のね」
カイトは笑った。それを見てスズナはストレートに言ってやる。
「意外ね、そんな表情出来たんだ。子供受けしそうな」
「遠回しにロリコンと言いたいのか?」
「うん、そう取ってくれていいわ」
談笑はここで終わった。毒霧が周囲に満ちていく。
「なっ……! 苦しっ……!」
「空気玉を飲め。おいでなすったか、暗黒導師様」
カイトも空気玉を口に二つ入れる。
「カイト! あんたそれ!」
「ああ、俺はもって3分。最悪の場合はお前が闘え」
カイトはまるでスズナを試すようなことを言ってのけた。いや、始めから試すつもりだったのだ。
「カイト・グランド、随分嘗めた真似を」
「ああ、そういうことだ。まずは三分間でお前の技を出し切らせる」
スッと構え、カイトは不敵に笑った。