第三十七話:具体例
「カイトっ!」
「やれやれ」
襲い掛かってくる化物達に余裕で勝つ男はスズナのお守りに労力を費やしていた。いや、労力とも言えない力だ。
「全く……、少しは手間をかけさせない術を身につけられないのか? 俺はこの山に住む奴を始末しに行きたいんだが」
呆れながらカイトは言うと、やはりスズナは食ってかかる。
「仕方ないでしょ! あんたの言うドール化の解除って凄く難しいのよ! 指先に瞬時に魔力を集中なんてコツぐらい教えなさいよっ!」
魔力のコントロールが苦手ではない、寧ろ強弱に関してはかなりのもの。ただ、指先の一点集中が難しいのだ。
「コツか。お前、体術は得意か?」
「もちろん! 喧嘩は好きよ」
あの魔法学園にいた時を思い出す。毎日猛者達を相手に闘っていた日々を……
「だったら話は早い。お前は拳に魔力を集中に切り換えろ。体力と根性だけは普通の魔法使い以上だ。後はなんとかなるだろう」
いい加減さとこの憎まれ口は瑞貴といい勝負になりそうだとスズナは思った。だいたい、さっきは自分を半分けなして慰めてくれた優しさはどこに行ったんだろう。
「カイト、あんた絶対性格歪んでるわ。特に年下に好かれる性格じゃない」
「世の中の女は性格と容姿、さらには名誉も含め総合的結果で男を選ぶように出来ている。若い女なら特にその傾向が強いと思うが」
間違いなくカイトの言ってることは一般的なことなんだろう。スズナ自身、覇王じゃなければ嫌だと思ってるぐらいなのだから。
「納得したならさっさとドール化の解除を身につけろ。ここのボスは闇界の住人でな、最近地界で悪さをする愚か者だ。お前がメイリンの子孫だと分かれば間違いなく狙われる」
「言わなきゃ問題ないじゃない」
もっともな意見をスズナは言うが、カイトは大きな溜息をついた。
「その天界の服、魔力を帯びてる時点で奴のカンに障る。次にそのエメラルドの目、魔法大国・幻想の国の生き残りと象徴づけるには持ってこい。
最後に一つ、お前の血の匂いでメイリンの子孫だと奴らはわかる。だから確実に狙われる。他にもいろいろあるが言ってほしいか?」
見事にカイトは具体例を挙げて説明した。
「……分かったわよ。だけど、カイトも大丈夫なの? グランドの血を引いているじゃない」
メイリンと同等の魔法使いをほっておくわけもない。しかし、やはり自信家は自信たっぷりに答えた。
「ああ、狙われはするだろうが、俺はまず負けないさ」
その意味をすぐに知ることになる。