第三十六話:霞む
ファンタジーの世界というものは何でもありだと聞く。しかし、ものには限度というものを考えてほしい。特に隣の医者には……
「あの山、何かの本で見た事あるような」
「へぇ、お姫様も少しは勉強してるか」
「大分してるわよ! これでも学年トップの成績だったのよ!」
事実であるが、何故かいつもスズナはお転婆のイメージしかない。しかし、それを軽く受け流す周りもスズナの実力を知れば認めはするが……
「そうか。だが、もう少し女らしさを出しても悪くはない。俺の婚約者は貴族でもないが、掃除、洗濯、炊事は完璧だ。早く迎えに行きたいところだが、まだ犯罪に手を染めたくはない。
何よりあの天使のような笑みをすぐに大人へとかえてしまうのは」
「ロリコン医者が! 私だってちゃんとやる時はやってたわよ! だけど出来る兄と姉をもったら妹は霞むんだから仕方ないじゃない……」
スズナは少しふさぎ込む。おそらく、二人の兄姉もドール化してしまったのだろうが……
「霞むねぇ。だが、お前以上に存在感のある女も珍しいと思うがな。瑞貴と言ったか、そいつがお前にとってどんな存在かは知らないが、少なくともお前がいて心底暗くなる奴はいないだろう」
軽くカイトは言ってのけた。しかし、褒められてるようなそうでないような感じにスズナは何と返していいのかが分からない。
「お前は今より少しだけ女らしくなればいいだろう、メイリンだって最初から立派な女神でもなかったはずだ」
「玉帝の血筋を引いてる女神様なら最初から出来も良さそうだけどね」
「仕方ないさ、お前は覇王の血も引いてるんだから」
間髪入れずにカイトは答えた。しかし、ふとスズナは尋ねる。
「ねぇ、私達の国では覇王は英雄だったけど、そっちはどうなの?」
天界で聞いた覇王は格下の地界人としか取られていなかった。メイリンですら玉帝の血筋という事実を隠されていた。ならばかつて仲間であった者なら、また別の捉え方もされているのではないかと考えたのだ。
「俺の国ではメイリンも覇王も大歓迎されている。大体の国がそうだろう、地界の人間は覇王達が戦ったから生きてるんだ。それを誇ってやるのも子孫の責務だ。
だからお前は自分が霞むなんて考えるな。瑞貴という奴を覇王にしてやりたいんだろう?」
性格最悪なくせして前をしっかり見ていた瑞貴、だけどスズナは心から思った。
「ええ、瑞貴が覇王になるなら私はメイリンのように強い魔法使いになる」
スズナは本気でそう答えた。
また放置してごめんなさい! これからも頑張ります!