第三十一話:東海青竜王
神々しい男は目の前に立つ。自分の父、東海青竜王。全てにおいて自分より勝り、彼自身が望まなくとも全ての頂点に立つことさえ誰もが認めると思わされる。
そしてその男を前にしては隣にいる奴も例外ではない。自分にすら興味を持たなかったスズナ・メイリンは少しだけ頬を紅に染めている。
「うわぁ、美形って本当にいたんだ」
あまりの神々しさにスズナは驚きの声をあげる。
「うわぁ、ミーハーって本当にいたんだ、しかも馬鹿力女だが」
「何ですって!!」
スズナは我にかえる。そしてどこかおもしろくなさそうな表情をした瑞貴は青竜王に文句をぶつける。
「お久しぶりですね、父上。だが、東海青竜王ともあろうお方がわざわざ息子の見送りですか」
「いや、お前達の闇界行きを阻止しに来た」
声までが神々しかった。物静かな風貌とその覇気は初めて瑞貴と出会った時とは違うが、やはり親子なのだと思わせる空気ではあった。
自分の本質を見抜かれているような視線は本当にそっくりで……
「覇王を目指すことに反対はしない。お前がそう決めたのならばそうすればいい。
だが、ヤンロンとセディだけに止まらず、玉帝の血を引くメイリンの子孫を危険に曝すことまで許すわけにはいかない。それが天界の意志だ。お前がそれを知らないわけもないだろう?」
スズナは混乱した。メイリンは天界から覇王に連れていかれた下級の女神だと思っていた。覇王が伝説になったから地界の女神とされたのだと思った。
だからこそ、高貴な女神達が自分の命を狙ったのだと思っていたのだ。それが竜王の上をいく位を与えられた女神などと言われても信じられる訳がない。
「だったら面白いじゃないか。俺は覇王と同じことをやろうってわけだ」
「そのとおりだ。だが、事態はお前が思ってるほど生易しくはない。魔法の国がドール化したということは闇界の力がそれほどまでに強力になったということ。戦争が再び起こるということだ」
「戦争……」
友人達を、魔法の国を滅ぼした者達と戦うことなど嫌でも分かる。しかし、瑞貴はニッと笑って答えた。
「だったらなおさらだ。俺達が闇界に乗り込んで奴らを倒す。もう決めたことだしな」
「私を止められると思うか?」
「師匠よりは弱いと思うがね」
二人の闘気がぶつかる。