第三十話:少しの後悔
瑞貴とヤンロン、そしてリンはセディにとって大切な弟妹だった。サラの父から戦闘のスキルを学び、今や天界においてその武勇を知らないものは少ない。
しかし、その師匠ですら闇界で行方知れずとなり、生死すら定かではなくなったのである。
光を帯びた魔法弾はいつになく殺気を帯びていた。それだけ自分を足止めしたいのだろうと感じるが、セディは微笑を浮かべて告げた。
「天の女神様が物騒な力を放つのね」
「セディ様ほどではありません。ただ、ここで私も負けるわけにはいかないのです!」
今度は強力な空気圧がセディに襲い掛かるが、それを難無くかわしていく。力の差は歴然だった。セディに敵う女神など天界には存在しない。だからこそ誰もが彼女に頭を垂れるのだ。
「サラ様、私もそろそろ瑞貴に追い付きたいのです。なのでメッセージだけ残します。ヤンロンはあの方を探しに闇界へ入るつもりです。だからヤンロンのことは諦めてください」
分かっていた現実を他人から聞くことも残酷である。しかし、それが事実だ。
「……セディ様も残酷な方ね。だけど諦めることは簡単ではありません。私はそれほどまでにヤンロンを欲しているんです。だから何としてでもあなたを!!」
腹部に走る重い痛み。サラはそれを受け入れなければならなくなった。自分が倒されたという事実を……
「大丈夫です。ヤンロンはあなたに使えたことを誇りにしていますから。師匠の大切な忘れ形見なんですから……」
「……そうですか」
サラはその場に崩れ落ちた。そして当事者は現れる。
「モテる男は辛いわね」
「お前ほどではないさ」
ヤンロンは軽く受け流す。しかし、多少の後悔は残っている表情を浮かべて……
「でも、出来ることならリンだけは連れていきたかった?」
セディは少しだけ笑って尋ねると、彼は隠しても仕方がないと答えてくれた。
「ああ、可愛い妹を傍に置いておきたいのが兄だが、強く育てるのも兄としての役目だ。それに安全な場所にいてもらいたいと思うのもな」
「……それは姉としても同感だわ。とりあえず、早く瑞貴達に追い付きましょう。最悪のストッパーに捕まってるみたいだしね」
「ああ、自らお出ましになるとは予想外だったがな」
ヤンロン達の言うとおり、瑞貴達の前には恐ろしい魔力を有する、天界一と言っても過言ではない男が立っていたのである……