第二十八話:リン
瑞貴の瞬間移動は闇界へ続く道まで飛ぶことが出来た。そして、その道はまるで暗雲立ち込める未来を表すかのような灰色の道ではあったが、覇王が辿ってきたであろう冒険の匂いがしていた。少なくともスズナはそれを感じていた。
「モテる男は辛いのね、ヤンロン」
走りながらセディはヤンロンをからかう。
「仕方ないさ、ヤンロンにはいい女が寄ってくるからさ」
「あんたがそれを言うと説得力ないわよ」
瑞貴の発言にスズナはツッコム。
「だけど、サラ様とリンちゃん、どっちを選ぶの?」
セディの問いにヤンロンは答えた。
「……お前がサラ様を止めろ。リンは俺が止める」
それだけ言って二人は消えた。
「えっ!? 二人ともどこに行くの?」
闇界の入口まで後少しのところで二人は戻ったのだ。
「追っ手を止めにだよ。あの二人は後から必ず来るから俺達は先に進むぞ」
瑞貴はスズナを抱え、さらにスピードを上げた。
「隊長っ!」
リンは目の前に現れたヤンロンに驚く。彼女が幼い頃から恋い焦がれ、憧れ続けた男がヤンロンだった。神兵団に入ったのもその背中を追いかけ、自分がその背を守れるほど強くなりたかったからである。
「リン、これからはお前が神兵団長の任につき、皆をまとめ上げてサラ様をお守りしろ。それを受け入れすぐにサラ様と引き返せ。これが神兵団長としての最後の命令だ」
「嫌ですっ! 何があろうと隊長をこのまま闇界へ行かせはしません! どうしてもとおっしゃるのなら力ずくでもあなたを止めてみせます!」
リンは赤い柄をした細剣を抜いた。それはヤンロンが彼女に与えたものだ。
「リン、お前には分かっているはずだ。なぜ俺が法を破ってまで瑞貴に手を貸すのか」
「……分かっています。私だって行けることなら隊長達と行きたい。ですが、青竜王様がそれを許すはずがありません。だから例え刺し違えてもあなたを止めます!」
リンは本気だった。その視線が痛い。自分が初めて剣術を教えた少女。数年前より成長していても心根は全く変わってはいないのだから。
「いいだろう、最後の稽古を付けてやる」
ヤンロンは二本の剣を静かに抜いた。