第二十七話:脱走開始
「さて、闇界への道は造った訳だが、スズナ、お前体術以外に取り柄はあるか?」
瑞貴の厭味ったらしい言い方はもはや止められるものじゃないとスズナは学習した。それに今回ばかりは自分の実力が低いと分かっているため、強く言えない部分がある。
「時空と治療、召喚魔法以外ならやれるわよ! どうせ何でも使えるメイリンとは逆ですよ!」
「なんだ、思ってたより出来るのか」
褒めてるのかそうじゃないかは分からないが、少なくともけなしてはない。事実、スズナの魔法のレパートリーは地界人としては多いからだ。
「いいか、天界から闇界へは俺の瞬間移動で飛ぶ。その後にお前の光の魔力をフルに使って二つの世界の狭間を破る! 勝負はたった一瞬だ」
こんな時だけは真剣になる。まだ過去の覇王には及ばないものの、未来の覇王は威厳だけは一人前だ。元々天界の王子様なのだから仕方ないが……
「あの時と同じなんでしょ。今度は倒れたらほっとくからね!」
「心配するな。お前が足さえ引っ張らなければ問題ないからよ」
スズナに特大の青筋が浮かぶ。本来なら思いっきり殴り飛ばしてやりたかったが、幻想の国での経験が無駄な魔力を使うことを本能的に許してくれない。
しかし、精神面でゆとりは持てる。今回はセディとヤンロンがいて、必ずサポートしてくれると信じられるからだ。
「じゃ、いくぞ!」
「させん!」
そこに現れたのは仙人と女神、そしてヤンロンがずっと鍛え上げてきた神兵団。一瞬たりとも隙を見せられないとスズナは身構えた。
「瑞貴、いや、青竜太子よ、お前がやろうとしていることが何を意味するか分かっておるのか?」
瑞貴の呼び方が敬称へと変わる。
「ヤンロン隊長、あなたの神兵団長の任務、この場において剥奪します!」
セディがさっき化けていた神兵、リンがヤンロンを睨み付ける。
「セディ様、光の女神ともあろうあなた様がどうしてこのようなことにお力を貸すのです」
サラが悲しそうな目をしてセディに言うと、瑞貴は微笑を浮かべて答えた。
「覇王は俺の夢だからだ。そしてメイリンの子孫に会えた。これ以上の理由はない」
「うっ!!」
力ある者以外、全てが瑞貴の覇気に威圧された。瑞貴が支えてくれなければ、スズナもその場に崩れるほどの覇気だ。
「……そうか、だったら話は簡単じゃ。まずはスズナ・メイリンを葬り去るだけじゃ」
「飛ぶぞ!」
四人は一瞬のうちにその場から消えるが、
「サラ、リン」
「はい! 必ず!!」
二人の姿もその場から消えたのだった。
久しぶりに更新しました☆遅くなってごめんなさい!