第二十六話:開始
どれほど大きな困難でも、幻想の国が滅びた時からスズナはひそかに誓っていた。
瑞貴が覇王になるなら、自分が瑞貴を守ろうと……
「お前達、俺の部屋の前で何をしている」
「瑞貴様!」
帰ってくるなり、腰を抜かしていた女神達をこの部屋の主は冷たい視線で女神達を見下した。
「スズナが倒れているようだが……、なるほど、こいつの魔力と覇気に威圧されたか」
事態を把握し、哀れな女神達を瑞貴は嘲笑う。やはりメイリンの血を引いているからこそ、力の低い女神程度はあっさり片付けてしまえるようだ。
「瑞貴様! その女は危険過ぎます! メイリンの血を引いているなら尚更……!」
侍女の声が途中で掻き消された。今度は瑞貴が威圧したのだ。
「メイリンの血を引いているからこそ、俺はこいつがいいんだ。覇王の名を出してくだらないとしか思わない女どもに、俺が興味を持つわけもないだろう」
ほぼ自分達は切り捨てられたと同然の発言だった。顔面蒼白のものまで出る始末だ。
「瑞貴様、すみません!」
侍女の一人がスズナに襲い掛かろうとしたが、
「血迷ったことをするな!」
「隊長!」
侍女を止めたのはヤンロンだった。
「瑞貴」
「分かってる。リン、お前を処罰する。ついて来い」
リンという名の侍女はその場に崩れ落ち隊長であるヤンロンが抱ると、瑞貴ともども、その場から消えたのだった。
「何の騒ぎです?」
「サラ様……」
サラが騒ぎを聞き付け、その場に瞬間移動で飛んで来た。
「瑞貴様が……」
声にならない声でも、サラにはこの場の現状で理解できた。
「……動き出したのですね」
そして幕は開かれる。
「ナイスだったでしょ、ヤンロン隊長」
リンは一気にセディへと姿を変える。
「やり過ぎだ。バレたらどうする」
ヤンロンは呆れ返る。
「ということだ。そろそろ声出してもいいぜ、スズナ」
ニヤリと笑った瑞貴にスズナは一気に覚醒して殴り掛かる!
「瑞貴!! あんたはまた私に……!!!」
スズナが気を失ってたのはほんの数分。瑞貴が現れた時には意識を取り戻していたが、またもや瑞貴が彼女の自由を奪ったのである。
その間、言いたい放題というよりやりたい放題だったと言うわけだ。
「やっぱりもう少しウエスト絞めろ。重過ぎるより少し軽いほうが楽だろ」
「ふざけるなぁ!!」
この叫びとともに、天界は動き出した。