第二十二話:女神の恋
天城の主は一人の青年の到着を心待ちにしていた。上級の女神が神兵に恋をすることなど常識から考えればご法度もいいところ。それがたとえ、この天界最強と名高い神兵の団長であってもだ。
「失礼します、サラ様。ヤンロンです」
低い心地よい声がサラの部屋に通り抜けた。心待ちにしていた相手の声だ。
「ああ、ご無事でしたか、ヤンロン様」
セディが西洋系美人なら、サラは和美人というところか。上等な着物を着た天城の主は柔らかくヤンロンに微笑みかけた。
しかし、ヤンロンはあくまでも主従関係を崩さない。
「勿体ないお言葉です」
ヤンロンは一礼した。そして片膝立ちになり頭を下げる。
「サラ様、お願いがございます」
「……全て分かっております。幻想の国を滅ぼした悪魔の件ですね。まず、そのような所業を行えるのはサタンに違いありません」
サラが呼んだ理由は主にそのことだった。天城の女神という立場上、神兵に命を下すのは当然のことだ。
「やはり……、瑞貴でさえ動くのが精一杯だったようで……」
「ええ。ですが、メイリンの血を引く少女に助けられたようですね」
全てを見通しているのもサラならでは。だからこそ彼女は悲しい表情を浮かべた。
「ヤンロン様、天界から抜け出すおつもりなのでしょう?」
「……はい」
言い訳しても無駄なことはヤンロンはわかっていた。だからこそ正直に答える。
「止めても無駄ですね」
「はい、全ては青竜王様のため。そして瑞貴を覇王にするためです。お仕え出来なくなることをお許し下さい」
ヤンロンは深々と頭を下げた。
「私も……、連れて行っては下さいませんか……」
「……危険です」
「ですが私は……!!」
それ以上ヤンロンは言わせなかった。サラの恋は認められるものではない。
「サラ様、私は瑞貴とセディ、そしてスズナ様を守らなければなりません。一人ではサラ様を守りきることは出来ません。お許し下さい」
心からの謝罪だった。自分が生まれた時からずっと仕えてきた主の一人なのだから……
「……分かりました。ですが、こちらも好きにさせるわけには行きません。何より長はあなた方が闇界に向かうことをお望みでありません。全力で阻止させていただきます」
「……受けて立たせていただきます」
そう告げて一礼し、ヤンロンが静かに部屋から去ると、サラは一筋の涙を流す。
「やはりどれだけ望んでも私の片恋だったのですね……」
そう呟き、彼女はそれでも彼を止めたいと思うのだった……
お久しぶりです!
ようやく書けましたので、今後ともよろしくお願いします☆