第二話:事件は突然に
「しあわせ~~!!」
全ての幸せはこの時のためにあるといわんばかりに、スズナはスパゲティーをたらふく頬張っていた。
それだけならいいものの、彼女のテーブルには大盛りカレーライスに特大チキン、さらにはケーキの数々が並べられている。それだけこの少女は食べるのだ。
「スズナ……、あんた胴衣が汚れてるわよ……」
親友のアイコが呆れながら指摘する。ピンクの鮮やかな胴衣は既にミートソースで真っ赤だ。
これが華の十六歳の乙女の姿だとは思いたくもない。
「いいの! これくらいの汚れなんてすぐにとれるんだからさ」
にっこり笑ってスズナは答えた。
このおてんば少女にかかれば、確かに全ては上手くいくといえばいくのだが……
「だけど本当にあんたって色気より食い気よね。今まで恋バナの一つも聞いたことないわよ」
もう一人の親友のナナはアップルティーを口に運びながら、未だ恋の一つもしたことのないスズナにあきれ返るのだが、彼女は全く気にしていないといった表情で言い切った。
「それもいいの! 私は『覇王』に恋をするの! その辺の弱卒じゃ私の相手にならないわよっ!」
「覇王」。それはこの世の全てを手にした最強の魔法使いに送られる称号であり、かつて女神「メイリン」が恋をした相手である。
しかし、その称号を手にするにはこの世の秘宝を手にしなければならないのだが、それが何なのか現在となっては不明である。
なんせ、数千年も前の秘宝なのだから……
そんないかにもスズナらしい言い分に、二人はクスクスと笑った。
「確かに、このじゃじゃ馬を躾けるにはそのくらい強くないとね」
「うんうん、一年の猛者どもならともかく、三年生までやっつけるなんて普通ありえないわよ」
それが今日の相手の筋肉男だった。
少なくとも、今日の相手はこの学園一の怪力自慢だったのだ。それをスズナは一撃で倒したのである。
「本当、瑞貴様じゃないと勝てないかもね」
「瑞貴? 誰それ?」
特大カレーを口に運びながらスズナは尋ねると、二人はムンクの叫びのような表情になって驚いた。
「あっ、ああ、あんたっ! 瑞貴様を知らないの!?」
「知らないっていったじゃない」
「落ち着いてる場合か! 瑞貴様はね! この学園一の魔法使いよ! 容姿端麗、成績優秀、あんたなんか足元にも及ばない天才魔道士! それにきっと性格もいいに決まってるわ。だって王子様に違いないし……」
二人が瑞貴を浮かべうっとりして溶けていく。
しかし、スズナはまったく興味を示さなかった。おそらく、ただのイケメンだと思っていたからだ。
「ふ~ん。まっ、私に挑戦してこないなら別に関係ないや」
特大カレーを食べ終わり、次にチョコレートケーキに手を伸ばそうとした瞬間、
「えっ!?」
突如、チョコレートケーキがテーブルから弾き飛ばされた。
「ちょっとアイコ、そんな怒らなくったって!!」
抜群の反射神経にこれほど感謝したことはなかった。ナナがスズナに斧を振り下ろしてきたのだ!
「ナナっ!」
そしてスズナは感じたのだ。いきなりこの周り全ての人間が自分の敵になったということに……