第十六話:天界へ
この世界には地界と天界がある。スズナが住んでいた幻想の国は地界にあたり、瑞貴達の故郷は天界になる……
「天の国? そんなの聞いたことないわ」
せっかくのチャイナドレスが瑞貴との喧嘩で着崩れている。せめて破らなかっただけ良い方だと思うしかない、まさにその状態だった。
「そりゃないだろう。俺達とお前の世界は違うんだからよ」
スズナと乱闘を繰り広げていたにもかかわらず、瑞貴は汗一つもかいていなかった。それが少しだけ憎らしい。
「スズナ、天界の存在は聞いたことあるだろう?」
「うん、神様が住む場所でしょ。だけどそれが実在するの?」
もっともな疑問をスズナはヤンロンにぶつけると、彼はきっぱり言い切った。
「ある。事実、俺達は天界の生まれだ。そしてこれからお前には俺達の長に会ってもらう」
「ちょっと待て! 俺は反対だ!」
瑞貴は間髪入れず反論した。それはスズナの身を案じているからこそだ。
「あんな頑固爺達にスズナを会わせたりなんかしたら国一つ滅びる騒ぎだって起きかねない! だいたい、いくらメイリンの子孫だといっても覇王の血も引き継いでるんだ。どうなるかぐらい目に見えてるだろう」
スズナは話が見えなくなった。ただ天界が存在し、彼らの長に会わなければならないこと、そしてそれを瑞貴が強く反対していることだけが分かった。
「だけどそうも言っていられないでしょう? 長だってそれくらいは分かってるはずだわ。幻想の国が滅びたこと自体、天界にとっても衝撃が走ったのに変わりないもの。
それにスズナちゃんを私たちの仲間に引き込むなら尚更。いくら瑞貴でもこれだけはお姉さんも譲りませんからね!」
天界人同士の口論が繰り広げられる。まだ神も悪魔も何も信じられない状況にいる自分にとって、とてもついていけるはずのない話題。
だが、何かに引っ張られるようにスズナの口は自然と開いた。
「瑞貴、私を天界に連れて行って。行かなくちゃいけない気がする」
「スズナ……」
エメラルドグリーンの目はどこか虚ろだった。しかし、それは間違いなく今の状況から進まなくてはならない、そんな気がしていたからだ。
「長だかなんだか分からないけど、頑固爺くらいなら相手が出来そう。だいたい、最近不幸続きなんだから神様に文句を言いたいところだわ!」
久しぶりに自分らしい言葉を言った気がする。幻想の国が滅びる前までスズナはそんな自分に違いなかった。
「そういうわけだから瑞貴、どうせあんたが天界まで飛べるんでしょう? さっさと連れて行きなさい!」
勝気な顔。それは彼女のアクセサリーそのもの。
「……あんまりお転婆根性出すなよ。メイリンはおしとやかな美人だったみたいだからよ」
「あら、そんなの私らしくないじゃない」
それを聞いてセディはくすくす笑った。
「瑞貴、あなたの負けね。それじゃ、早速行きましょうか。長のところへ殴りこみに!」
スズナの真似をしてセディは言う。そして、四つの影は天界へと向かうのであった……