第十五話:仲間だもの
ほんの一時間前に出会った剣士は女で、いきなり抱きしめられたかと思えばこんな格好をさせられているのである……
「大変お似合いですわ、スズナ様」
どこかの王宮の侍女のような口ぶりで、自分とそう歳も変わりそうにない少女が言った。
「かわいいんだけど……、ちょっと窮屈だわ……」
真っ赤なチャイナドレスは、少しだけスズナを締め付けていた。普段、動きを最優先にしたピンクの胴衣しか着ていなかった彼女からすれば、ワンピースさえ窮屈に感じてしまうのだ。
「お許しくださいませ。セディ様はスズナ様と瑞貴様のことを思っておられます。私どもはその命令を全うするためにいるのですから」
やはりセディはどこかのお嬢様だと思った。しかし、一つだけ疑問に思う。
「ねぇ、瑞貴様ってあいつはそんなに偉いやつなの?」
たしかにどこか気品はあってもあの性格は最悪もいいところだ。お坊ちゃまなら、もう少し上等なものも着ていそうだ。白シャツに黒の長ズボンとはいかないだろう。
「それは」
「偉いに決まってるだろう。お前の失態の尻拭いをしてやったあたりよ」
その声に悪寒が走った。間違いなくあいつだ。
「瑞貴……」
コチコチと後ろを振り向く動作が痛々しく感じる。しかし、そんなことも気にせず、セディは甲高い声を上げて抱きついた。
「きゃあああ! やっぱりスズナちゃんかわいい! 私のセンスに狂いはなかったわ! 二人ともそう思うでしょ?」
おそらく否定でもしたら殺されることを知っていたヤンロンは、無難な言葉を選んだ。
「うむ、馬子にも衣装だな……」
彼にしたら立派な逃げ言葉である。元々がそう人をほめることもないので、セディはそれで満足した。
「瑞貴はどう思うの?」
そうたずねられて、瑞貴は真顔でスズナに近づいてきた。
「なっ、なによ……」
スズナはさすがに何も言える立場ではなくなった。今回ばかりの否は確実に自分にある。着飾ったとしてもどれだけ嫌味を言われるかと思ったが、
「お前な、胸ない癖してこんな詰め物してない……」
時が完全に止まった。自分の胸にあるのはこの世で一番大嫌いな奴の手、今それを確信した。
しかし、それをどかそうともしない。それにスズナはブチキレた!!
「やっぱり……、あんただけは死ねっ!!」
二人の乱闘が始まる。それを見てセディはニコニコしているが、ヤンロンは呆れながらも気づいていた。
「すぐに長に会わせるつもりか? あの服、「光の糸」で作り上げたものだろう」
「あら、気づいてたの?」
意外といわんばかりに、しかし、さすがという表情をセディはヤンロンに向けた。
「まぁな。正装させてる時点で思っていたさ。だが、神も悪魔も信じない奴にとって俺達の世界は信じ難いものじゃないのか?」
ヤンロンの言うことは正論。しかし、セディはふんわり微笑むと、
「大丈夫よ。瑞貴とすっかり仲良くなっちゃんたんでしょ。それに、これから一緒に戦っていく仲間だもの、絶対受け入れてくれるわ。あのメイリンの子孫なんだから」
スズナと瑞貴の乱闘を見守りながら、セディはこれからの未来を思うのであった。