第十三話:ポーカー
世の中にせこい奴はいくらでもいる。いまスズナが立たされている現状はまさしくその象徴のよう。
しかし、それをあしらうかのように世の中には何でも出来る奴がいるものである。それがインチキポーカーだとしても勝てる奴等が……
「獲物は?」
黒い目が本当に光った気がした。それだけ瑞貴は表情には出さないが活々していることは分かる。スズナはどう考えても彼が負ける姿が予測出来ない。
「こいつだ。ポーカーは知ってるだろう?」
店主自らトランプを取り出す。どうやら瑞貴の気迫に触発されたようで彼もやる気になったようだ。
折角入った少女をただのガキに取られるわけにはいかない。スズナは磨けば光る、それだけは間違いなかったのだから……
「もちろんだ。ヤンロン、お前は?」
瑞貴は少し目線を高くして尋ねると、彼も異論はないと頷いた。
「問題解決は早い方がいい。スズナはいくら負けたんだ?」
「百万だ」
「随分高いな、スズナの価値」
「というより、何故そこまで負けられるのか不思議でならん」
それを聞いてスズナはすぐにでも殴ってやりたくなったが、スッと瑞貴の目が静かな光を帯び始め何も言えなくなった。
木の椅子に座るその動作でさえ、まるでその辺の人間じゃなくなったようで……
「俺達の旅費も稼がせてもらう。どうせなら贅沢にやりたいからな」
「そうだな」
二人の勝気な笑みと同時にカードは配られた。
そして数十分後……
「ロイヤルストレートスラッシュ!!」
同時に発せられる声、それは瑞貴とヤンロンのものだった。それに二人の相手をしていた者達は何故だと表情を歪める。
「相手にもならねぇな」
「全くだ」
恐るべきロイヤルストレートスラッシュを何度も炸裂させる二人は、スズナの負け分の倍以上は取り返していた。
自分達がどれだけインチキをやろうとしてもカード自体が手元に来ない。そんな状況が続いていたのだ。
「さぁ、これで十分だ。スズナをさっさと返せ」
スズナの負け分を店主の前にポンと置く。しかし、彼等が引くはずなかった。
「おい! あいつらを始末しろ!!」
雇われていた剣客に店主は命ずるが、剣客はそれを拒否した。
「私は勝負事に関しては正当でいる。今回は彼らの勝ちだ。私が斬る理由などない」
そう言って店の奥へと引っ込む。
「そういう事だ。さっさと返してもらおうか」
瑞貴は爆発寸前だった。これ以上拒めば今にもこの店を破壊しそうな殺気を放って……
「くっ……!! 死ねっ!!」
一瞬にして店主は銃を抜き瑞貴に向けて発砲した! 従業員達も武器を取り出してヤンロンに向かっていく! だが、結果は既に分かっていた。
「ぐはっ!!」
「うわっ!!」
やられたのは店主達の方だった。刹那という時間にヤンロンはこの場にいたもの全てを斬っていたのだ。
「もう一度だけ言う」
瑞貴は店主が落とした銃を拾って尻餅をついている彼の元へ歩み寄ると、その場全てを威圧して命じた。
「スズナをさっさと返せ!」
店主の額に突きつけられた銃には汗が伝っていった……