第十二話:馬鹿者!
人生に困難はつきもの。だが、ここまで不運が続くとはスズナは思わなかった。まさか自分が景品になる日が来るなど……
カーボーイ達が集いそうな木造作りの小屋でスズナはガラの悪い男達の舐めるような視線を受けていた。
「お嬢ちゃん、負けた分は体で払ってもらおうか?」
店主の厭らしい笑みが気持ち悪い。このまま目の前の奴らを抹殺することは可能。
しかし、今回は明らかに自分が悪い。やけになってポーカーをならなければよかったと反省する。
「分かったわよ。どこのどいつを倒してほしいの? 負けた分くらいは働くわ」
肉体労働ならまだいける。それにごまかしをきかせる自信もあった。しかし、店主はやはり引きはしない。
「お嬢ちゃん、冗談はいいから早速どこに売るか決めて……!!」
次の瞬間、スズナは机一つを完全に粉砕した。塵となった机はパラパラと宙を舞い、これには辺りが騒々しくなる。
「私は強いわよ! 用心棒にはもってこいじゃない?」
勝気な笑みをスズナは浮かべた。しかし、少しだけ店主は呆気にとられたがすぐに話を戻した。
「……分かった。だが、君に求めてるのは色気の方だ。少し大人しくしていてくれ」
「嫌よ!」
スッと首筋に刃が当たる。この店の雇い剣客だ。戦えば無事では済まされないほどの達人だということはどんな戦いの素人でも感じられるほどの……
『ちっ! 逃げられないか……!!』
さすがに本気で戦うことを決意するしかなくなったが、その時ドアのペルがチリンと鳴った。
「はい、いらっしゃいませ〜!!」
新たなカモがかかったといわんばかりに、店の従業員はにこやかに接客を始めたが、そのうち一人の少年は冷たく従業員をあしらった。
「俺達は客じゃない。ここにおてんば娘が来てないか? いかにも怪力そうな奴だが」
「瑞貴! ヤンロン!」
そこに入ってきたのはさっきまで一緒にいた二人だった。しかし、先程からかわれたことに対する怒りは収まっていないが、逃げ出すチャンスが巡ってきたのである。
「なんだ、いたのか。さっさと旅に出るぞ。落ち合う予定の奴もいるんだからよ」
悪びれた様子もないが、逃げ出すチャンスだ! とびっきりの笑顔で二人の元に走ろうとしたが……
「ちょっと待てよ」
剣客はスズナの前に立ちはだかる。ヤンロンはそれを見て二本の刀を抜こうとしたが、彼はすぐに動けなかった。それほどこの剣客は達人の域にいる。
「お連れさん、このお嬢さんは今景品になっている。金が払えないというのならお引取り願おう」
剣客のまっすぐな目がヤンロンの刀を引かせたが、瑞貴の怒りを鎮めることは出来なかった。そして、それは爆発する!
「スズナ……!! お前はどこまで馬鹿なんだ!! 宇宙一か!? 史上空前の超絶馬鹿か!!」
「悪かったわよ!! だけどカッとなったのはあんた達の性じゃない!」
「なんっ……!!」
いつもならここで瑞貴は言い返すが、今回は少し止まった。そして何やら考え込んだあと微笑を浮かべる。
「いや、そうだな。それは謝るよ。とにかく景品は貰いたいしな。いうことを何でも聞いてくれる可能性もあるし……」
嫌な汗がスズナの背中を伝って来る。これはここの店主達よりまずい!
「待ってろ、すぐに貰ってやるからよ」
「いやぁ〜〜〜!!!」
これまでにない悪戯な笑みはスズナを最悪の状況に追い込むこと間違いなしだった。