第十一話:甘い罠
「伝説」。口で言うのは簡単だが、それをやり遂げようという人間はこの現代にそう存在しない。
ましてや御伽噺の世界を現実にしようというものなど……
「あんた……、頭おかしくなった?」
スズナの一言に瑞貴は首を傾げた。どうやら計算違いが生じたようである。彼女の性格ならもう少しそれなりのリアクションはありそうなものだと思っていたが……
「覇王を目指すまでは賛成してあげるわ。だけど、私は伝説になりたいとかそこまで熱くなれないわよ?」
「おっかしいなぁ〜??」
瑞貴は腕組みさらに首を傾げた。
「お前みたいなタイプってこういう熱いものに惹かれるんじゃなかったっけ?」
「確かにな。だが、メイリン様の血を少なからずとも引いているんだ。もっと論理的に仲間に勧誘するべきじゃないのか?」
二人の男がありとあらゆる策を練っている。そんな二人のやり取りにスズナはわなわなと震え始めた。
「ちょっと二人とも……!! 一体私を何だと思ってるの?」
あと一言の地雷で爆発しそうなスズナに、何を今更と二人はしれっとして答えた。
「おてんば娘だろう??」
「あんた達なんか……!!」
それだけ言ってスズナは外へ飛び出していった。
「……からかい過ぎたか?」
ヤンロンが少しだけ反省すると、
「間違いないな。だが、こんなギャグも飛ばせなくなるんだ。あいつは引きずってでも俺達の仲間にする。
古代文字を解読できるものがまだ残ってるなんて奴等に知れたら、スズナは殺されるぜ。それにあの文字を誰が教えたのかも気になるしな」
「……とりあえずこの国は安全な方だ。飯がすみ次第、スズナと合流しよう」
ヤンロンは立ち上がり、ポトフを皿によそい始めた。
一方スズナは……
「もう!! あんなやつらなんか知らないわよ! 人を馬鹿にするにも大概にしろっての!!」
怒りを丸出しにしてスズナは歩く。少しでもまともな奴等だと思った自分が愚かだったとも考えながら……
「お嬢ちゃん! うちの店に寄っていかないかい?」
「何なのよ!」
いかにもヤンキー丸出しなチャラチャラした格好をした男が、スズナに声をかけてきた。
「気の強いお嬢ちゃんだな。だが、そういう子がうちでボロ儲けするんだよね!」
そして取り出したトランプ。
「簡単なことさ。ポーカーで一儲けしないかい?」
誘われた甘い罠。しかし、何も食べずに外に出てきたスズナは簡単にその罠に乗るのだった。
「いいわよ。勝負は大好きなの!」
勝気な笑みを浮かべ、スズナは店に入っていった……