第十話:長い長い話と敵の存在
何かがおかしい……、自分は幻想の国に起きたことを聞きたかっただけなのに、どうして幻想の国の歴史まで聞かされているのだろう。
それもこんなに懇切丁寧な説教口調で……
「瑞貴、スズナ! まだ説明は終わってないぞ!」
「いや、ヤンロン、覇王とメイリンは恋人同士だったことなんてどうでもいいから、それよりもスズナは幻想の国に起きたことを聞きたいだけなんじゃないのか?」
半分魂が抜けている瑞貴に対して、スズナは冥土が見えているようだ。おそらく堅い話など苦手なんだろう。
「馬鹿者っ! 覇王とメイリンの関係なしに幻想の国のことが語られるわけがなかろう!」
「どうにかしてくれ!」と瑞貴は心の底から叫んだ。しかし、ここでようやく本題に入ったのである。
「覇王とメイリン、そしてその仲間たちは奴等にとって脅威だった」
スズナの魂が少しだけ戻ってきた。
「奴等って?」
その問いに一呼吸をおいてヤンロンは答える。
「悪魔の存在を信じるか? 幻想の国では疫病神という名だったか」
「悪魔って……! ちょっと待ってよ! 神とか悪魔とか言っても、それはあくまでもファンタジーの世界の話でしょ? メイリン様だってもとはただの人間で祭り上げられたから女神となっただけ。その証拠が私じゃない!」
スズナの言うとおりだった。いくら信心深い幻想の国でも、それらが現在に実在するなどとは考えない。
「それを信じさせるために前置きをしたんだ。「悪魔」というものは実在する。女神ももちろん実在しているんだ。その証拠が幻想の国におきた事件だ。
『ドール』。操り人形と化す症状を引き起こしたのも奴等なんだよ。メイリンの子孫ならその程度の魔法知識はあったはずだろう?」
「それは……」
確かに知っていた。しかし、そのような古代の高等魔法が使えるものなどこの現在にいるかどうかは疑わしい。それも古の悪魔となど誰が信じるだろう。
「だからこそ俺達は戦うしかない」
「戦う?」
スズナは瑞貴を見た。その目は戦いを求めるものの目だ。
「こういう展開は決まっているだろう? 悪魔をぶっ倒す! そして俺は覇王になるんだよ。伝説にするんだよ、俺たちの存在をさ」
予測はしていたが、やはりそのような展開になるらしい……