『城攻め?』
「じゃ次は我が城を取り戻す番じゃな」
「あぁ、それ無理だから」
毎度のごとく強攻策を言い出すこの突撃馬鹿金髪ロリ幼女(笑)対して、条件反射のようにとりあえず意見を否定する。
「なんじゃと。これだけ連勝したのだから、次も勝てるに違いないわい」
「根拠のない意見はいりません。そこに反省し座ってなさい!」
そう言うと素直に金髪ロリ幼女様は正座をする。しかもここ最近は周りの蝙蝠達も同調するように金髪幼女様を叱咤する。
「そうですよ、前は今より兵力があっても城攻め失敗してるんですよ」
「兵力があるのに連敗するご主人様と 兵力がないのに連勝する軍師、どっちが正しいと思います?」
最早散々である。ふくっーと頬を膨らませ金髪ロリ幼女様は精一杯の抵抗をするが、結果が全てである。
何も反論できないと知り、おとなしくしている。
「で、これからどうします?」
そう聞いてきたのは蝙蝠先輩、今や彼は自分の副官として軍の采配を行っている。
「ここからは正直見えないんだよね。一応、諜報部隊は出ているよね」
「はい、蝙蝠小隊8小隊が敵の作戦室など各所に点在、兵士の会話を盗聴し、リアルタイムでこちらに知らせております。
そう、人間はこの時点で魔族側が諜報していると想像の外にある。なんせ小さな蝙蝠、その気になれば家具の隙間にも入れる。
魔力に関しても蝙蝠は最低限の魔力しか保有していない為、魔法使いでもよほど注意深く索敵しないと発見は困難だろう。
無論、その盗聴という可能性を人間は考えるべきだが、魔族が基本馬鹿という常識がある以上、急に人間が魔族に対する認識を変えようとも常識というのはそれを阻害する。
いつかはバレルと思うが、いつか通用しなくなるといって、使わないのでは実にもったいない。
「で、どんな感じかな?」
「下級兵士は不安でたまらないという感じですね。上層部は撤退と交戦と意見は割れているものの決めかねている感じです。一応、少数の部隊で森に散開し、食料と水を調達する予定ですね」
「矢はどんな感じ?」
「後、1回の大規模戦闘があれば尽きる感じです、前回の城防衛戦でかなり消費した感じです」
「矢の場内生産はどうなの?」
「木の部分はできても矢尻は無理という話ですね。城内には鍛冶の設備なんてありませんから」
「ふむ、そうなるか、じゃ次の作戦にいくか」
「了解しました」
人間にとって食料と水は欠かすことができない。なのでこのような遠征には必ず大規模な糧食隊が同行する。
なので後続の追加の補給部隊が全滅したからといって直ぐに餓える事が無い。
しかしここで人間同士の戦闘ではありえない、魔族との戦争ならではの問題に直結する。それは『水』である。水は飲むのにも使えば煮炊きにも使う、怪我で傷口部分を洗浄するのにも使う。
水は食料以上に大量に使うのだが、補給に水はあまり含まれない。水は重量にして重いというのもあるが、水は河川や井戸などを使い現地でも大量に簡単に入手が可能な物資なのだ。人間同士の戦闘でも占領した城や町にはかならず井戸があり、水は容易に入手可能になる。
しかし魔族となると、これが違ってくる。魔族は魔法生物であり水は大量には必要なく、その為占領した魔族の城には井戸は1つもなかった。
結果として占領した魔族の城に井戸はなく、人間側としては早々に水の確保が最優先事になってくる。
一応、早急に井戸を掘り進めてはいるが、城というのはそもそも森の中などでは見通しの良い高台などに建設するのが普通であり井戸を掘るのも深く掘らねば成らず、未だ水の入手には至っていない。
「仕方ない、決死隊を募り、近くの河川から水を得るか」
それが次の人間の考え、しかし、それこそが次の狙いであった。
「じゃ、そろそろ人間達が水確保を舞台を出すから、これを全軍で攻撃、殲滅して。但し魔法使いがいるなら決して攻撃はしないで、その代わりに」
「嫌がらせのような攻撃をして疲労させるんですな」
「そそ、普通の蝙蝠によるはるか上空から小石を落とす、いやがらせの攻撃ね。これは相手を倒すのではなく、護衛に魔法使いが有効なのと、疲労させる為だからね」
「了解しました」
魔族側が城攻めに躊躇する理由は兵力差も当然あるが、敵の魔法使いの存在である。地を這う騎兵や弓兵はあまり脅威ではないが、魔法使いは別格である。
なにせ魔法一発でこちらの蝙蝠部隊に大ダメージを受ける。現状の調査では敵側に魔法使いは22名、それを無効化しない事には城への奪還作戦には到底成功しないと判断していた。
その為、次の作戦では魔法使い対策が最優先された。まずは魔法使いをを疲弊させる。または分断化に成功すれば水確保部隊に魔法が1人ならなんとかロリ主人なら単独での撃破は可能になる。
又、上手くいけば魔力切れに追い込めば普通の魔力蝙蝠でも倒す事ができるし、できなくとも後の布石になる。
こうした魔族側の作戦が功を奏したのか、人間側にもたらされる報告はあまり人間側にとっては良い物ではなかった。
「あまり良いとはいえぬな」
人間側の部隊の長、今回の遠征軍の長である貴族はその報告書を見て顔をしかめた。
城の人員はその数を減らしたとして1000名近くはいる。それらの人間全員の水を賄うのはかなりの量が必要なのだ。この城近辺には舗装された道などなく、獣道程度しかない。その細い道では馬車などの通行が困難であり、水を満載したカメや桶など運ぶのにかなりの労力がいる。
水場のある場所は森が深く見通しも悪い、その為、当初水確保の決死隊はことごとく全滅。
そこで虎の子である魔法使いをつけたのだが、魔法使い1人では嫌がらせのように続く攻撃に魔力が切れ結果同じように全滅、何名かの魔法使いが犠牲となった。
そこで4名以上の魔法使いによる護衛により、水の確保に成功したもののに、その量は全員分の糧食には十分とはいえず、成功とまでいえなかった。
さらに間の悪いことに水のない状態であり、当然に食料の煮炊きまで回せず、食料を生でかじるような事態になった
結果として城内で大量の病人が発生。すでに現状としては撤退すら困難な事態まで陥っていた。
遠征軍の貴族の表情はすでに絶望の域にまできていた
「さてそろそろ次の作戦ですね」
「おっ城攻めじゃな」
「ご主人様は静かにしていてください」
「・・・・はい」
そう言うと金髪ロリ幼女は素直に納得する。まぁここ最近たまに魔法使い率いる水補給部隊に対し、そのストレスを発散させていたので反論も静かなものだ。実に可愛い。
何も言われなくも隅に移動し正座をする。うん、、実に可愛い。
「じゃ次は 予定どおり」
「ですね、城内は病魔と餓え、乾きですでに極限状態まできています。城内の武器庫と食料庫に火を放します。と同時に、作戦通りにアレを」
「今作戦の一番目標ですね」
「そそ」
作戦室ではいつもの蝙蝠達の静かな笑みがあふれていた。そしてその隅ではいつものふてくされた顔の金髪ロリ幼女が静かに座っていた。
その時、城内では1人の末端兵士が部屋に作られた簡易ベットで横になっていた。
「水・・・水、あぁ喉が渇く」
そんなグチをいっても水が目の前に出るわけでもない。喉は渇くが、今は最低限の水しか配給は回ってこない。
そもそもそんな少量の水でさえ、今まで何名の命を費やして取ってきた大切な水なのだ。
一応、城内での井戸の採掘は進んでおり、あと少しで水の確保が可能になるが、現状として今その水が目の前に出てくる事は無い。少しでも静かにているしかないのだ。
それに腹の調子も悪い、水がないせいで煮炊きができず、いつかの食材は生で食うことになった。実に腹の調子が悪い。
兵士としては今回の遠征は当初魔族への侵攻と聞いて不安でいっぱいだった。 しかし領主の決定には逆らえず、遠征軍として参加する事になった。
そりゃ当所としては破竹の快進撃で、その勝利に酔いはしたが、偵察部隊から補給部隊にいたるまで末端部隊の次々の壊滅に気を暗くしたものだ。そこに続く、水と食料の不足が自分の気持ちどころが、体まで重くしている。
そんな中である。
「ん? なんだこの臭い」
扉の隙間から臭う、何が燃えた匂い、しかし燃える匂いといっても気分を害すものではなく、どことなく、そう美味しい匂いがする。思わず兵士が扉を開けると、そこには城内に広がる煙が頼っていた。
「火事?」
気付いた瞬間、頭にかかっていたもやが少し晴れる。いくら水や食料不足をいえども、動かなければ火事で焼け死ぬのでは意味が無い。
耳を傾け急ぎ城内の喧噪の様子を確認し始めた。
「火事だ。」
「発火場所はどこだ」
「わからん、アチコチで燃えているんだ」
「敵襲か?」
「分からん、ただ食料庫が燃えてるのは確かだ」
「食料庫だと? 消火を急げ」
「消火って、水もないのにどうしろと」
「魔法使いの水魔法があるだろ」
「そんな明日の水確保の仕事が。そもそも魔法でそんな大量の水は出ないんだぞ!」
「食料が全部燃えたからでは遅いんだぞ」
「おい、食料庫だけじゃない、武器庫もあちこちが燃えてるぞ」
「井戸は、泥水でも少量の水は出ただろ」
「その井戸も燃えているんだよ」
城内は完全なパニックに陥っていた。しかし数少ない魔法使いは魔力を全開にし、消火活動に参加する。
昼間の水決死隊に参加したら者などは魔力がすくないながらも、必死に消火に参加していた。
平時ならこのような放火は成功しなかったかもしれない。
しかし、魔族側が火を放つ事のできる隠密に優れた蝙蝠だった事や、水や食料不足による集中力の欠如、数少ない魔法使いも随時、水確保にかり出され、夜は完全に疲れ熟睡の者が多かった。
結果的に大規模な放火に成功。それにここは魔族側の城であり、城内の地理にも精通していたのもあるだろう。
その慌ただしい消火活動は夜の間続いた。なんとか火事が収まった夜明け頃には城内の大部分が火事で焼失していた。
結局たいした消火もできず、結果としてわずかな食料を確保できただけに終わったのだ。無論なんとか確保できたその量は兵士全員に渡るほどの量はない。
城内に残された僅かな食料、そして武具でさえも多くは炭に変わり、その光景を末端の兵士だけではなく、貴族たち上層部など全員を落胆させていた。
もうこれで戦えなない。多くの人間が敗北の二文字と同時にこの後は全面撤退
しか選択肢はないと予感していた。
しかし、人間側の不幸はそれで終わらなかった。
火災が鎮火し、城内に安堵の声が広がってしばらくした数時間後、城内にいたほぼ全ての魔法使いが自室などで魔物に襲撃され殺されていのが判明した。
魔法使いの中には睡眠中結界により、身を守る者が多くおり、又希少な魔法使いには警護の者をついていた。
しかし城内火災に全魔力を使い切り、そこには魔力切れの魔法使いしか存在していなかった。さらに火事の後始末など指揮系統が混乱し、満足な警護ができなかった事も災いした。
疲労と、火災の後始末、そんな混乱状態の中、小さな暗殺者達は一番の目標を達成した。
そう・・・今回の最大の目標は魔法使いの暗殺にあった。