『魔法生物』
「あれ? 何ここ?」
周りは薄暗い、闇と言える場所。
でも、何だろ全く痛くはない。自分は山中で急に足下が崩れ落ちた記憶がある。思い起こすと、何が何だか分からないうちに、急に体がふわっとなったと思ったら、体中が堅い石のような物で何度も打ち付けられた気がする。
おそらく雨か何がで緩くなった地面のせいだろう。結果崖から落ちたのだろうと推測できる。
しかし不思議だ、あれだけ体中を打ち付けたはずなのに全く体が痛くない。
不思議と思いつつゆっくりと顔を上げると・・・
そこには巨大な人の大きさもある巨大な蝙蝠が目の前にいた。
「うぎゃああああああああぁぁぁああ」
暗闇の中に自分の声がこだまする。その悲鳴がそこら中に響き渡る。しかしそんな自分の声に対し驚くこともなく、魔の前にいる蝙蝠はゆっくりと首をひねると、しばらくした後に何か頷いたように首をゆっくりと縦に振る。
「あぁもしかして当たりか?」
ん? 何が当たり何だろう。懸賞でも当たったの?
いや、その前に何故この人の大きさもある巨大蝙蝠が人の言葉を話す?
ましかして自分再度生命の危機、あれ?
1.戦う
2.逃げる
頭の中に選択肢が浮かぶ。いやいや、戦うなんて無理でしょ、こんなでかい蝙蝠すよ。
しかも蝙蝠っすよ、飛ぶんすよ。逃げられるわけないじゃないすか!
いやいや、落ち着け自分!
パニックになりつつもなんとか深呼吸をして気持ちを落ちつかせるのだ。
落ち着け自分、第一蝙蝠が人の言葉を話すことが変なのだ、もしかして・・・ぬいぐるみ?
いやとにかく落ち着け。とりあえず今自分のおかれた状況を確認・・・えっ?
・
・
・
いや、待て!
何かがおかしい。背後からも多くの何か大勢いる気配がする。なんか息づかいが聞こえてくるんですが・・。振り向くのが怖い、でも・・・今の状況ををなるべく多く把握しないと。
心の中で折り合いを付けつつ、ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには多くの巨大蝙蝠が自分たちを見ていた。
「うぎゃああぁぁぁぁぁあ」
いやーーーん。
「まぁ落ち着け」
「おぉぉ、コレが落ち着いて居られますか。な、なぜこんな巨大な蝙蝠が、えっえっ自分食べられるんすか、血吸われるんですか」
「まぁ落ち着け」
「いやこんな蝙蝠だらけで。いや貴方も蝙蝠ですけど、あれ? 何言ってるのか、いやあれ、いや蝙蝠ですよ。こんな巨大な!」
「とりあえず、落ち着け」
「いや、こんな状況落ち着くのは無理ですよ」
「いや、落ち着け、お前も蝙蝠だ」
「・・・・・・・・・・・えっ?」
そう言われ、自分の手を見る。っいて手? いやこれ手じゃないでしょ。翼だよね。しかも薄い皮膜の。いわゆる
蝙蝠の翼。
しかも、失ったはずの左手の感触さえある。
下を見ると、確かに、黒に近い灰色の体、そこに生える産毛。鏡がないので顔は見れないが、少なくとも自分の体は目の前にいる巨大蝙蝠と同じ姿をしていた。なんすか? コレ?
「まぁ理解したか、まぁお前は珍しく異世界転生組だから理解は難しいだろうが、おいおい理解してゆけ」
異世界? 転生?
見知らぬキーワードに思考が再度止まる。
「あぁまず最初に説明しておく。お前らは魔王軍の一員として召還された。これからは魔王軍の一員として行動してもらう」
魔王軍?なんだそれ?
いや、しかし、この感触、これが夢だとは思えない。しかもどうも前の前の蝙蝠、話しているように見えたが、どうも頭の中に直接届くような感じがしているような。
そんな次々と浮かぶ疑問を無視するかのように目の前の蝙蝠は次々と説明を続ける。
「基本ここに居る物はみな転生者だ。一応確認として 転生者で前世の記憶を持つ奴がいたら手、いや翼をあげろ」
自分はゆっくりと翼を上げる。ん?なんか視線を感じる。
ゆっくりと周りを見回す。大勢の蝙蝠が自分を見ているが誰も翼を上げてない。
あれ?
「ふむ、やはりお前か・・」
話が突然すぎて、しかも急すぎて全く話題についていきません。
そもそも我が人生の目標は『空気のように』ですよ。
目立たなく、平穏無事な人生おくってきた自分にはこの今まで普通電車だと思った電車が、そのまま加速し3回転半宙返りするような話の加速についていけるわけないじゃないですか!
よし今回は自分が説明するお前はこっちについてこい。
ヒョコヒョコと両手両足を使い器用に移動を開始する。そういえば蝙蝠といってもサカサマで天井に張り付いているんじゃないんだな。
「よし、じゃ説明する」
どうやら連れてこられたのは、そこから少し移動した場所。移動するときに気付いたのだが、ここはどうやら洞窟の内部らしい。
まぁ蝙蝠と言えば洞窟だよね。そういえば、自分の悲鳴もかなり響いていたし、まぁ洞窟なら当然かもしれない。
ただ、ここが洞窟といっても鍾乳洞と言った方がよく、鍾乳石があちらに点在していた。そしてどうもその鍾乳石から垂れる石灰石まじりの
水滴から想像するに、どうも自分は人間サイズの巨大蝙蝠ではなく、かなり小型。日本では本州に多く点在する小型の蝙蝠
いわゆる通称イエコウモリと呼ばれる小型サイズの蝙蝠だと推測された。
そして周りの蝙蝠も同じサイズの小型蝙蝠だった。それが巨大に見えたのは自分が小型なので同サイズの蝙蝠が巨大に見えたのだろう。
しかしよくよく見るとイエコウモリとは明らかな違いがある。目は大きく、花は小さい。わかりやすく言えばまるでぬいぐるみのような風貌をしている。よく見ると実にかわいい。
周りの蝙蝠も似たような姿なので、おそらく自分も同様のぬいぐるみような愛嬌のある姿をしているんだろう。
「ここらへんで良いだろう」
目の前で蝙蝠が説明を開始する。ただ蝙蝠といっても、自分を含め全員蝙蝠なのでこれからは先輩蝙蝠と呼ぼう。
「了解しました。先輩」
「先輩? まぁいいや、とりあえず自分が分かる範囲で説明する」
「はい」
「お前の前いた世界には魔法があったか?」
「いいえ」
「そうか、お前は前何だったモンスか?」
「いいえ、人間・・・・のような生き物でした」
「ん? 人間じゃないのか?」
「いえ人間です」
慌てて首を振る。自分の事を人間と自身がなかったのは確かだが、目の前の先輩には関係がない。自分は確かにDNA的には人間なのだから、この場合は人間で間違いないのだろう。
「そうか、じゃ説明する」
そこで聞いた説明は自分としては想像外の話だった。
ここはいわゆる剣と魔法の世界であり、いくつかの人間の国家と亜人の国家、それに魔族同士でも戦争を起こしている世界
人間は生殖により人口を増やすが、魔族は基本魔法生物である。
魔力によって存在し、その増加方法は普通の生殖行為以外に、分裂、召還など多岐にわたる。
ただ、強力な魔王クラスになれば、不老不死に近い存在の為、繁殖を行わないらしい。
で自分達のような下等使い魔クラスは基本召還となる。
主人の魔力をコアにして、そこら辺に普通にいる生物を触媒に使い魔を召還させる。
今回はこの鍾乳洞にいた大量の蝙蝠を触媒に召還を行ったそうだ。
しかし、それでは知識の無いただの生き物に過ぎない。
そこで、生前の知識と知恵を同時に埋め込む。無論個人差はあるが、これにより教育という手順をすっ飛ばし、魔物として即戦力になる。
但し必要以外の前世の記憶は持ち越されない。
よく考えれば、確かにそれが有れば兵士としては有益だろう。知識と知恵がある程度あれば育成や教育の手間が省けるのだ。
又、生前の記憶が持ち込ませないというのも有益だ。例えば敵対する魔族や、魔族に殺された人間の記憶を持ったまま転生しても部下にならずに、その場で反抗するだろう。
全くその記憶がないからこそ従順になる。実によくできたシステムだと関心する。
「あれ、でも自分は」
ここで改めて、矛盾点が思い浮かぶ。自分は前世の記憶があるぞ?。
そんな不思議そうな顔を見つめ先輩蝙蝠は改めて説明を続ける。
「そうお前には、前世の記憶がある。そういったものはこことは違う世界異世界からの転生者なのだよ。」
「はぁ?」
「ここの世界での生物とは全く違う形の異世界での魂の為、異世界からの転生者は前世の記憶があるまま転生するか、又は知恵と知識がまったく継承されず、人間んの赤ん坊以下の状態で生まれるかどっちかだ」
「はぁ」
「無論、それ以外にも特殊能力を持って転生する場合もあるが」
「なら自分にも特殊能力があるんすか?」
「それは自分には分からんが、確率はかなり少ない。そもそも異世界からの転生でも数万分の1に過ぎない」
「今回数千羽の蝙蝠を召還したのでまぁ。1匹くらいはいるかも・・・とは思っていたけどな」
「はぁ」
なるほど、なら自分はその中に偶然生まれたのだろう・
「まぁその分お前は幸運だ。人間んの赤ん坊のように知識も記憶も全くない状態じゃないのだからな。その代わり異世界からの転生なのでこっちの知識がない、だからこの基礎知識を最初から説明する手間はあるがな」
「なるほど」
ここまで説明が続き、何となく自分の置かれた状況を理解する。
「でお前は他の者と別の仕事につく」
「えっ」
「とりあえず、自分の仕事はここまでだ、ここから先は自分を含め全員を召還した上級魔族である『魔将』のお方の元につれていく」
「魔将?」
「そうだ、ここら一帯を根城にする上級魔族で『魔将』とよばれる存在だ。多くの部下を持つ。魔族の将の1人だ」
その言葉に、背筋が寒くなる。前の世界で魔族の将軍といえば、残虐で非道、それこそ悪の幹部というイメージだ。
もし、失礼な事をすれば、自分はこんな体だ、すぐさま潰されてしまうだろう。それに先程の説明にもあったが召還された生物は、決して召還者に危害を加えることができないらしいのだ。
まぁ自分としては反抗しようにも、こんな小さな蝙蝠では何もできないだろうけどね。
もし逃げだしても。捕食され終わりだろう。
確か蝙蝠の天敵は鳥などの猛禽類、そしてカエルとかクモにも捕食される。ここはおとなしく従うのが一番だろう。
正直カエルやクモに食われるのはイヤだ。
蝙蝠先輩につれて行かれたのは小さな明かりの灯る小部屋のような場所。
そこに居たのは、自分の予想外の生き物った?
普通にドコでも居る 金髪の幼女だった。
「あれ? これが魔将?」
つい口に出た言葉を 目の前の幼女は笑顔で頷いた。