2話 リア
その少年、世界を燃やす爆炎をもつ――――。
その少年、肉を立つ刃を持つ――――。
その少年、見えざる矢を持つ――――。
その少年、巨躯の獣をもつ――――。
その少年は死ぬことがないという話だ。
その内容が不明瞭な報告書とも言えない報告書を見せられて一級貴族スティル・クラッカーは溜息をつく。
彼はあの日取り逃がした者が居なかったかという調査を部下にさせていたのだが、上がってくる報告書はこんな物ばかりだ。
「はぁ……使えない者ばかりという訳ではないはずなのだが、これは何者かの意図あっての結果だろうか? すまない、リア、お茶を頼む」
「はい、旦那様」
リアと呼ばれたメイドは手馴れた動作で茶を沸かす、空想魔法、全く村の人達が見たら怒るだろうとリアは、もうありもしない日々を空想する。
「リア、また村のことを考えていたのかい? 空想が漏れているよ」
そう言われて、リアはハッとする、周りを見れば幼い自分や友達、そしてあの少年の幻影が部屋中を走り回っている。
「も、申し訳ございません、旦那様」
空想を消そうとリアが手を振り払おうとすると、その手をスティルが止める。
「あの少年が君の言うゼロで、今私が部下に探させているもので間違いないのかね?」
スティルがゼロという少年の幻影を見て、リアの肩ごしに囁く。
「はい……あの時ゼロは旦那様の部下を殺し――――一人で逃げましたから」
場面があの夜へと変わる、血まみれの教室に、少年が立っている。
『大丈夫、みんなは逃げて……僕が戦う。』
嘘つき……あの日結局誰も助かりはしなかった、自分と彼を除いて。
それは単純に彼の死体が見つからなかったということもあるが、燃え尽きてしまったとは考えにくかった。
空想の炎にそこまでの火力はないはずなのだ――――それに、今世間では『核爆の魔術師』と名乗る輩が出没するという、見た目こそ違うが、その魔法は間違いなく空想魔法で、あの日彼が見せた魔法によく似ている。
「リア、仕事を頼んでいいかい?」
「なんでございましょう?」
「この少年を出来れば拘束してほしい、無理ならば殺せ」
「……御意に」
リアはこのスティルに拾われて以降、メイド兼暗殺者として育てられた――――いずれは空想魔法を持つ子孫を残すための母体とされるのだが――――
そして彼女は旅立った、幼き日に生き別れた少年を求めて……。