1話 燃える村
少年は知っていた、煌々と燃える炎を。
少年は知っているあの鋭い刃に引き裂かれる感触を、そして痛みを。
少年は少年であったことを思い出したのだった。
気づけば彼の周りには血まみれの男たちが倒れていた、全員外傷は刃による切り傷、既に事切れていた。
「ゼロ……?」
リアが不安そうな顔をして、ゼロを見ている、他の子達も同様に、しかしどこかゼロを畏怖するような様子であった。
ゼロはその目に見覚えがった『化物――――。』少年が、死地から生きて帰ってくるたびに浴びせられた言葉だ、不死の化物だと。
ゼロは無意識のその記憶をイメージしていた――――体に何かが宿るのをゼロは感じた。
「大丈夫、みんなは逃げて……僕が戦う。」
そう言ってゼロは教室を飛び出した。
パンッパンッ、木造の柱が燃えて爆ぜる。
その音にゼロは銃声を思い出すと同時に、その痛みも思い出した。
「止まれ、小僧!」
前方から怒声が聞こえる、さっきの男達の仲間のようだ。
「……イメージ、イメージするんだ!」
ゼロは叫んでいた、イメージ、それは確かな記憶を元に作られる。
前方に立ちふさがる男は崩れ落ちた、その眉間を弾丸に穿たれて。
ゼロは走る、ひたすら、森の中へと、逃げるために。
そう、彼は逃げ出したのだ、あの場所から、あの記憶から。
ただの子供にはあの大人たちに抗える力などあるはずがない、そう思って。
しかし、敵も甘くはなかった、森の方へ逃げるゼロを発見すると、男たちは猟犬を放った。
猟犬は足が速く、ゼロに追いつくのにそう時間は掛からなかった。
ゼロは思う、あの牙に――――また!
「い、嫌だァァァ!」
ゼロは頭を抱え、顔を地に伏せ無我夢中に魔法を使った。
猟犬たちは、ゼロに飛びかかれなかった、なぜならば既にその喉元を食いちぎられていたからである。
ゼロは伏せていた顔を上げる、そこには大きな白い獅子が居た、あの時檻に居たあいつだ。
ゼロはそう思った。
獅子は、ゼロの方へとゆっくり歩み寄ってくる、ゼロは腰を抜かした。
しかし、獅子はゼロを襲わなかった、ただ、顔を一舐めすると、消えてしまった。
村の方から大きな爆発が起こる、巨大なキノコ雲を発生させながら、村が燃えていく。
ゼロはこの光景を知っている――――少年の最期だ、あの日見たアレはこんなものではなかった、しかしそれはソレを思い起こさせるには十分だった。
魔法が暴走する、死に一番近いイメージによって、再び爆発は引き起こされた。
ゼロの居た森は、一瞬にして焼失した。
――――この後に、たまたま近くを通りかかった魔術師によってゼロは拾われる、彼女はこれをやったのが少年であるとすぐに気がついた。
――――同じ頃、男たちの上司である貴族の男が村を訪れる、男の部下たちは全滅していた、全て灰になって。
村人は疎か、子供達さえも灰になっていた、男はそこで一人の少女を拾う、灰を被りながらも無傷の少女を、男は思う、これをやったのが彼女であると。
そして男は少女を連れ帰った、将来自分の妻にするために。
それから十年が経過したとき、物語は再び動き出す――――。