プロローグ
その世界に一人の少年がいました。
少年はとても裕福な家庭に生まれ何一つ不幸を知らずに暮らしていました。
しかし少年が六歳の誕生日それは起きました、火事です、それは少年の家と家族を焼きました、少年も焼けました、それはもうこんがりと。
でも少年は生き残りました。
少年は七歳になりました、親戚のこれまた裕福な家庭に引き取られました。
しかし強盗がやってきてみんなを銃で撃ち殺しました。
でも少年は生き残りました。
少年は八歳になりました、そしてまた裕福な家庭へ行きました。
通り魔に襲われました、刃で滅多斬りにされます。
でも少年は生き残りました。
少年は九歳になりました。
乗っていた車のブレーキが故障してみんな崖下に落ちました。
でも少年は生き残りました。
少年は十歳になりました、今度は外人のお金持ちに買われました。
少年は死なない、そういう噂がお金持ちの間に広まったのです、少年は呪われた不死の化物だと言われます。
少年は獣と同じ檻に入れられました。
獣は少年を食べました、爪で引き裂き、牙で噛み付き。
少年は生き残りました。
大きな爆発でした、お金持ちも使用人も獣もみんな吹き飛びました。
しかし少年は生き残りました、全身酷く爛れています。
少年は思いました、また死ねなかったと悔やみました。
遠くには大きなキノコの形をした雲が見えます。
少年はそのまま、深い眠りにつきました。
この世界に少年が居ました。
少年は夢を見ました、名も知らない父と母に抱き上げられる夢を。
少年の名はゼロ、ここはソラエラ村、空想魔法を扱える、一族がひっそりと暮らす村。
ゼロには三人の家族がいます、父と母、それから祖母。
ゼロの家の隣にはリアという名の少女が暮らしていました。
二人は大変仲がよく、いつも一緒に遊んでいました。
ゼロとリアは六歳になりました、今日から村で唯一の学校へ通います。
そこでは一族の子供たちが、空想魔法を学ぶために集められるのです。
「ですから空想魔法というのは、自分の記憶にあるものを具現化する魔法であり、それは人の心に深く刻まれているものを現象として再現する力です。」
教壇では先生であるリリレが魔法を見せながら身振り手振りで教えていました。
「せんせー、トラウマってなんですか?」
リアが聞きなれない言葉について質問した。
「トラウマというのは心に刻まれる負の記憶です、負の記憶というのは、何に対し、怒り、憎しみ、恐怖、悲しみ、妬み、それらの感情を含んだ記憶です、これを魔法で現象として再現すると、我々の魔法は、強い攻撃性をもち非常に危険です」
先生の顔は真剣だ、ゼロはしっかりと先生の言葉を刻み込む為に耳を傾ける。
「故にトラウマをもつ一族の者はこの村を追い出されます、これは村に災いが降り注ぐのを防ぐため、トラウマは争いしか生みません、そして争いもまたトラウマしか生まないのです」
そして唐突に聞こえる鐘の音――――
「なんでしょう?先生は少し様子を見てきます、貴方たちはここにいなさい。」
先生が教室を出て行く、子供たちは先生の指示に従い外へ出なかった。
キャー――――誰かの悲鳴が聞こえる、そしてしばらくして、教室のドアを誰かが蹴破る。
「全員動くな!動けば殺す!」
そこには軍服を着た中年の男がいた、手には赤く染まった刃を持っている。
この日、ソラエラ村は壊滅した。
そしてゼロの運命も再び回り始めるのだった。