素直な気持ち
五話目です。
寒いです。ひたすら寒いです。
手がかじかんでおります。
「暇だ」
学校においては行事シーズンで生徒はワイワイ、ガヤガヤと忙しく動き回っていた。
この進学校では行事は入試が終わった三学期に行なうのが普通らしい。
「源さん! これはどこに?」
「ああ、それは―――」
それは良も例外ではなく、実行委員なんてものをしているせいか忙しそうだ。
そう、僕に構う暇がないくらいに。
「暇だ!」
さっきより少し大きな声で言ってみた。
「もう少しお待ちください、香月様」
さっきからそればかりだ。
少し、少しと言って一時間ほど待たされている。
「主人を待たせるとはお前もボディーガード失格だな」
「では、車を呼びますので先にお帰りください」
良はなんと、堂々と携帯を取り出して家に電話を掛け始めた。
止める間もなく電話が終わる。
「校門に車が来ますのでもうしばしお待ちください」
良は怒った時、他の人では怒ったと分からないくらい極上の笑顔を浮かべる。
「……別にそんなに怒らなくても」
「怒る? 私はボディーガードですよ。主に怒りを向けるなんてするわけないではありませんか。それこそ、ボディーガード失格です」
有無を言わさぬ迫力で来た車に乗せられた。
うやうやしくお辞儀をして校舎に戻っていく。
「では、出しますよ? 香月様」
「ああ……」
後ろ姿を見送って、車は学校を通り過ぎて行く。
夕食の時にでも言い訳をしようと考えてゆっくりと背もたれに体重をかける。
冬休みも終わり、寒さも緩んできたと思ってたのに外では雪が降っていた。
「なぜ帰ってこない?」
夕食の時間になっても良は帰ってこなかった。
「はぁ、何でも学際の準備が忙しいそうで学校に泊まると―――」
「ふざけんな! 主人を放って置いて何がボディーガードだ!」
イライラと机やイスを蹴る。
周りはおたおたとどうするべきかと思案していた。
「ご飯はいらない! もう寝る」
「坊ちゃま! お稽古は―――」
「今日は休む」
いつもならまじめに取り組む稽古も、今日はサボる。
今何をやっても集中できないことを分かっていたからだ。
「香月様、昨日はすみません。なにぶん忙しかったものですから」
「言い訳をするな、僕は―――怒ってるんだ」
良のほうを見ずにすたすたと歩く。
いつもならここで機嫌をとるために近寄ってくるはずだ。
「源さん!」
急に声がして良がそれに返す。
当然僕のほうには来ないわけで、一人で歩く。
「寂しいなんて―――」
最近素直に思うようになった。
「良がいないと寂しいよ」
言い訳をするのも疲れた。
僕は良がいないとダメなんだ。
「寂しいよ」
雲行きが怪しくなってきた空を僕は見上げた。




