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17-5:変わる 世界と桜色

17-5:変わる 世界と桜色


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 炎の世界が一瞬で桜色へと変わった。

「っく」

 突然の衝撃に防御魔法を展開することも出来ず、秋生は為すがままに炎の壁へと叩き付けられた。

 この炎も秋生の力で生み出している魔法の産物、炎が秋生に燃え移ることは無かったが、しかし、衝撃を吸収してくれるわけではない。


 刹那、呼吸が止まり、意識が黒に染まった。


「お主は、何者だ?」

 突然、次元監視者である秋生の世界に割り込んできた存在。

 これまで、次元監視者をやって来た中で、こんな事態は初めてのことだ。

 異常事態に心と体が狂乱状態に陥ろうとしている。

 秋生はコイン型のMSデバイサーを素早く右手で握りしめ、そして一度空に飛ばし、再び握りしめた。

 たったそれだけのことで、心と体は落ち着きを取り戻す。

 そうだ、いつも同じようにコインを投げれる。

 なら、慌てることなど何一つ無いのだ。

 いつでも攻撃出来るように臨戦態勢を取りながら、秋生は侵入者を観察する。


 この世界に進入してきた敵は、全部で6体。

 一人は全身を桜色の光で包み込んでいるため、どのような姿をしているのかは定かではない。残りの五体は、皆同じ鎧を身に纏い、それぞれが異なる武器を持っている。


「ティーちゃん。お待たせ」

 桜色の光が言った。

 どうやら、その声を聞く限りこの光の主は女のようである。

「ティーカ・フィルポーズを助け出す。それが、お主らがここに来た理由か?」

「ティーちゃん。大丈夫、怪我とかしてない? 迎えに来るの遅くなってごめんね」

 秋生の質問を無視して、桜色の光はティーカに話しかける。

 しかし、その声には何処か違和感がある。

 まるで、人形に話しかけているかのように、その声に宿る感情は偽りめいている。

 それに、もっと秋生の奥底でこの声に違和感を感じる何かがある。

「わたしの方、やっと準備が終わったの。これで、やっとクロートとラケシスを探しに行けるよ」

 桜色の声は、秋生の記憶を掘り起こす。

 過去、何処かで聞いたことのある声。

 忘れていた記憶が、少しずつ秋生の中で蘇ろうとしている。

 しかし、今、大事なのは思い出すことではない、この犯罪者を捕らえることだ。


『Flame Fire』


 MSデバイサーに呪文を刻み、生み出した火球を桜色の光とティーカめがけて放つ。

 が、しかし、火球は全て、彼女を守る騎士のごとく立ちはだかる五つの鎧に打ち砕かれてしまった。

「さあ、一緒に行こう、ティーちゃん。そして、一緒に創ろう、あの色に満ちた世界を、あの人が帰ってこれる居場所を」

 その言葉が引き金となり、秋生の記憶が戻る。


『ねえ、あなたはこの世界が好き? 私は大好き。だって、この世界は色々な色に満ちて居るんだから、それに乱君もいるし………本当、帰りたくなんか無いよ』


 彼女を秋生は知っていた。

 彼女もまた次元の迷い子となり、別次元に迷い込んでいたのを秋生が助け出し、元の次元に返した。

 確か、彼女の名は、


「サクラ・アリス…………」


 その呟きに桜色の光―サクラ・アリス―は反応し、恐らくこの次元に来て初めて、秋生の存在を認識した。

「ねえ、あなたは、乱君の救いを求める叫び声が聞こえている?」

 サクラ・アイスが笑ったように見えた。

 実際には、彼女は光に包まれているため、その素顔を見ることなど出来なかったのだが、秋生は確かにサクラが笑ったと感じた。


 それも、狂気の笑みを浮かべながら。


「次元監視者。よく見て、その目に焼き付けなさい!これから、新たな次元が生まれる、その瞬間までをね」

 ティーカの言葉を最後に、サクラと5体の騎士とティーカは桜色の光に包まれて、一瞬でこの次元から消えてしまった。

 残った秋生は、力の限り近くの炎を殴りつけた。

 その顔が歪んでいるのは、この次元に進入を許した屈辱故か、ティーカを易々と連れ去られた失態故か、

 あるいは、変わり果てたサクラ・アリスを見た故だろうか。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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