2-4:真実とは夢のないものだよ
2-4:真実とは夢のないものだよ
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講堂での騒動の後、ティーカは保健室に行くという名目で講堂を後にした。
もちろん、素直に保健室には行かず、人目の無いところで、魔法を解き普段の妖精サイズへと戻った。
「ふう、危なかったわ」
魔力が底をついているため、ステルスの魔法もすぐには使えそうにない。
この姿で人に見つかるとそれはそれで厄介なので、ティーカはとりあえずは何処か身を隠す場所を探すことにする。
「でも、不思議。流誠の手、何であんなに温かかったんだろう」
つい先程、流誠が握りしめてくれた掌を見つめてしまうティーカ。
彼女は、自分の頬が朱色に染まっていることにまだ気づいていない。
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チャイムが鳴り、生徒達が講堂からぞろぞろと出てくる。
葉っぱが茂る木の枝に姿を隠しながら、ティーカは彼が出てくるのを待っていた。
「遅い」
そんな悪態をつきながらも紫の妖精は、講堂の出入り口から目を離さない。
「やっと来たわ」
彼が出てきたのは、一番最後だった。
講堂に誰もいない事を確認して、鍵を閉めている。
ティーカはかろうじて回復した魔力を使い、ステルスの結界を張る。
いつも通りとはいかないが、多分大丈夫だろう。
隠れていた樹から飛び出し、ティーカは一直線に流誠の肩に飛び乗る。
「おっと。ティーカ、もう大丈夫なの?」
視界外からの登場に驚きはしたものの、流誠は何よりも先にティーカの心配をしてくれた。
「まあね。あんたが手を握ってくれたおかげで、なんとかなったわ」
「そうか。それは良かったよ」
「でも、不思議よね。なんで手を握っただけで、あたしの魔力が回復したのかしら?」
人差し指を頬に当て、小首を傾げるティーカ。
「ああ、ティーカ、それ………」
「神秘よね。流誠、あんたさもしかして、歴史に名を残せるほどの大魔術師の素質とかあるんじゃないの。
うわあ、だとしたら凄いわ。それって私も歴史に名を刻めるってことでしょう。
ねえ、流誠それって夢みたいじゃない」
爛々と目を輝かせて語るティーカの笑顔を見て、流誠はもう何も言えなかった。
この笑顔を守りたいと思ったから、彼女のナイトになったのだ。
何も自ら、笑顔を壊す必要はない。
大切なのは、真実じゃなくて、あの場でティーカを助けたことだから。
「そうだね。でも、その歴史ってボクのいる世界じゃなくて、ティーカの世界の歴史でしょう。なら、ボクにはあんまり得がないかな」
「うわあ、あんた、何贅沢言ってるの。歴史に名を刻めるなら何処だって良いじゃない」
「かもね。でも、久我流誠としてではなく、ティーカのナイトとしては、お姫様が歴史に名を刻んでくれたらそれだけで、騎士名利なんだけどね」
「っぅ。流誠、あんた、何恥ずかしい事さらりっと言ってるのよ」
たわいない会話をしながら大学の構内を歩く流誠とティーカ。
そんな流誠の手に握られているのはナイトの証である紫のカード。
そこに刻まれている呪文は、
『Charge Magical Source』
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