16-1:最後の七人目
16-1:最後の七人目
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暗闇の中で、たった一つの約束を守るために、戦う男がいた。
男の手に握りしめられているのは、黒のカード。
男が名付けたそのカードの名前は、『プロミス・オブ・AS』
七人目の魔法使いである彼もまた、誓いを果たせなかった騎士だった。
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その日、仕事が終わった流誠は一人、宝石展にやって来ていた。
同僚である美術の寧子教師にお願いしていたチケットがやっと手に入ったためだが、別に流誠は宝石が好きなわけでない。
前にティーカがここに来たいと言っていたおり、偶然にも寧子先生がこの展覧会のチケットを持っていたので譲って貰ったのだ。
ティーカと一緒に来るつもりだったから、ペア・チケットの意味は無くなってしまったが。
「ティーカはここで何を見たかったんだ?」
飾られている数多の宝石を眺めながら、流誠はあの紫色の妖精の目的を考える。
答えは出ないが、もしかしたら、ここにティーカへと繋がる何かがあるかもしれない。
そう思うと自然と流誠の宝石を見る目にも力がこもってしまう。
「うん?」
宝石展の中で、一際人が集まっているスペースがあった。
そこは確か、この展覧会の一番の目玉である桜色と銀色がまか不思議に混じり合った宝石がある場所だ。
それなら、この人の多さも納得する。
流誠の足がそちらに向かった瞬間、流誠は彼を見つけた。
何故、この人の中から彼を見つけられたのかは分からない。
それは、クレデターとの戦いで養った勘によるものかもしれないし、もしかしたら、似たもの同士引かれあう何かがあったのかもしれない。
人の集団から、一歩離れた所に立っている彼が、自嘲的な笑みを浮かべたその瞬間、世界が闇に変わった。
照明が落ちたのだ。
流誠は冷静に判断できたが、突然の停電に観覧者の数人は悲鳴を上げている。
そして、次に光が戻った瞬間、人々の前から桜色と銀色が混じり合った宝石が無くなっていた。
そして、流誠の前から彼も消えていた。
導き出せる結論は一つ。
流誠は迷わず、展覧会場を抜け出し、彼を追った。
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展覧会場を飛び出した流誠は、直感のまま走り出した。
自分がこの会場から抜け出すならここを通ると思うルートを走り抜く。
そして、ビルを抜け出し、三つ目の交差点を左に折れた先に、彼はいた。
「この私を追ってくるなんて、何処の誰だ?」
黒衣に身を包んだ彼は、その手に桜色と銀色が混じり合った宝石をしかりと持っている。
振り返るその姿は、自分が悪事を働いているという自覚はまったくないのか、唯我独尊と思えるほどに迷いがない。
「警察でも、探偵でもない、ただの現文学講師さ。でも、流石に泥棒を見逃す訳にはいかないんで、追いかけさせてもらったよ」
「ふん、ただの現文学講師ね。嘘を付くな。
お前から、ほんの少しだが魔法の匂いがするぞ。
まるで、ヘビースモーカーから煙草の匂いが取れないかのようにな」
冗談を言っているでもない黒衣の彼の口調に、流誠は思わず言葉を失ってしまった。
まさか、今ここで『魔法』と言う単語を耳にするとは予想外だった。
ティーカの笑顔が流誠の頭を過ぎ去った。
彼女へ繋がる道を、この黒衣の彼は持っている?
そんな期待が芽生えたが、次の瞬間に確信へと変わった。
黒衣の彼が桜色と銀色の混じり合った宝石を持つのは別の手で、黒いカードを取り出したのだ。
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