15-4:リトル・ナイト
15-4:リトル・ナイト
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いまだ名前を知らない剣士と、不機嫌顔であるが小夜子の元に戻るとは言い出さないリリともに鳴恵はこの小さな秋祭りを楽しんでいた。
町内会で開かれている小さな祭りだ。
一周回るだけなら10分もかからない。
だが、どんなに小さな場所でも、そこに友と呼べる存在がいるだけで、そこは楽園へと変わるのだ。
「なあ、楽しいよな」
リンゴ飴を舐めている少女と、輪投げで獲得した大きな人形を抱きかかえている剣士の両方に言う。
だが、二人から返事はない。
答えたくない事なのか、
答えられないのか、
答えるまでもない事だからなのか?
力無き者と、
人無き者と、
友無き者達は、歩いていく。
「あれ、どうした、リリ?」
ふと隣を歩いていたリリシアの足が止まった。
首を傾げる鳴恵だったが、リリシアが見たのは、彼女ではなくその横に立つ剣士だった。
青い瞳が何かを定めるかのように緑の剣士を射抜く。
「ボクには、友情なんて感情は全く、分からない。でも、その感情は君達にとってとても大きな物であることは、一緒にいてよく分かった。
だから、使わしてもらうよ」
玉露がそう言った瞬間、世界が三人だけを残し緑色に染まり、鳴恵の体が金縛りにあったかのように動かなくなった。
刹那前まで、動いていた体が今は、まるで何処か配線が切れてしまったかのように動かず、秋祭りでにぎわっていた人は皆、消えてしまった。
「これ、お前なのか?」
月島に伝わる術式、碧鎖空間と黄金縛りだ。
「動くな、闇法師。動けば、お前の友達が死ぬよ」
玉露の右腕には確かに津樹丸が握られており、その射程範囲内に鳴恵は入っている。
リリシアの魔法発動と、玉露が鳴恵を斬るのが、どっちが先か。
十中八九、プロセスの少ない玉露の方だろう。
リリシアの瞳が大きく見開かれ、激情に満たされている。
闇法師にどんな目で見られようとも玉露は気にしない。
だけど、きっとこれで、もうこの鳴恵と名乗った少女とも一緒にいられないと思うと、ほんの少しだけ胸が締め付けられる気がした。
「ボクは月島の人間。
闇法師を狩るのが、ボクの運命。
だから、ここでリリシア、お前を斬る」
玉露の魔法が津樹丸に集まっていく。
対するリリシアは為す術がない。
鳴恵が死ぬと小夜子が悲しむし、何よりリリシア自身が鳴恵には絶対に死んで欲しくないと願っている。
所詮、リリシアは人形。
壊れれば直せばよい。
そうとは分かっていても、この募る怒りは終えられない。
囚われの鳴恵を見る。
リリシアがそばにいたために、余計なことに巻き込んでしまった彼女は、しかし、怯えてもなく、怒ってもなく、ただ真っ直ぐに前を見ていた。
玉露の術式に囚われているなか、その眼球でリリシアを安心させるように笑いかけ、そして、訴えた。
「リリ、オレはオレの友達を信じている」
最初は、何を血迷った事を言っているかと思ったが、鳴恵は本気だった。
本気で、友のことを信じていた。
全くもって愚かで愚痴の一つでも言ってやりたいぐらいだったが、まあ、それは事が済んだ後でだ。
リリシアは意識を集中して、魔力を練っていく。
友を信じた鳴恵を、リリシアも信じることにした。
「やっぱり、キミは闇法師なんだ。友達なんて嘘だったんだ」
玉露の顔に僅かに落胆の表情が浮かび、そして、青人形、緑剣士が共に魔力を解き放った。
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