15-3:フレンズ
15-3:フレンズ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
楽しい秋祭りの夜が過ぎている。
それは、異なる環境、立場で生まれ育ってきた彼女達にとって、忘れることのない一夜となっていく。
「やっぱり、普段剣で鍛えてるだけあって、お前って運動神経良いんだな」
「別に、そんなことは……。それよりもこれをどうしろと?」
「凄いじゃん。一等賞の特大世界的うさぎマスコットの人形だろう。家に持って帰って飾れば良いじゃん」
「僕にそんな趣味はない。それに僕は……」
「ははは。まあ、とったのはお前だ。後はお前の好きにすれば良いさ。
煮るなり、焼くなり、斬るなり、あるいは、抱くなり、飾るなり、やりたいようにすれば良いさ。
ただ、一言言わせてもらうと、そのキャラってリリのお気に入りなんだよな」
鳴恵が笑いながらリリシアの事を指さした。
青人形は、鳴恵や小夜子といる時とは違い、まるで人形であるかのように、一言も発していない。
ガッシ
しかし、どんなに無口であろうとも、鳴恵といるときの不機嫌さに変わりはない。
「ぅうう。い~~った、リリいきなり、膝を蹴るなよ。
っつか、余計なこと言うなって顔してるな。良いだろう、真実なんだし。
それにお前、毎日ママに買ってもらった人形抱いて………」
ガッツ、ガッツ、ガッツ
リリシアは顔を真っ赤にしながら、鳴恵の脛を蹴り続けてくる。
流石にこれには、鳴恵も涙目になるしかない。
「っっ、っっ、っっ。痛い、悪い、ごめん。
オレが悪かった、もう言わないから膝を狙うのは止めてくれ」
そんな姉妹喧嘩をしているかのような二人を見ていた玉露は、ついポツリと呟いてしまった。
「本当、不思議だ」
「うん、何だが?」
剣士は相棒である津樹丸を握り締めながら、言葉を選びながら疑問をつづっていく。
「キミがそうして、その闇法師と仲良くやっていることが。
キミは闇法師について知っている。その上で、何故その闇法師とそんなにも楽しそうに一緒にいられるんだ?」
玉露の目の前で、鳴恵が人差し指を小さく振って、剣士の言葉を訂正する。
「闇法師じゃないぜ、リリシア・イオ・リオンだ。
お前、誰かを呼ぶとき、人間なんて呼んだりしないだろう。
だったら、リリにも、ちゃんとリリシアと呼んであげなくちゃ失礼だぞ」
「そうか? 僕にはその闇法師は、余計なお世話だと言っているように見えるが」
その通り、無口であるがリリシアは誰に目に見ても明らかに鳴恵を睨み付けていた。しかし、この女性は最強の魔法人形でにらまれたぐらいで怯むようなタマではなかった。
「ま~、リリは素直じゃない上に、オレ対しては良く怒ってるからな。こいつって天の邪鬼なんだよ」
「僕には、よく分からない。それで、どうしてキミは、その闇法師……そのリリシアと一緒に居るんだ?」
笑いながら、自分を睨み付けてくる少女の肩を抱き寄せる。
「簡単な事だぜ。っと言うか、オレとリリを見ていて、分からないかな?」
「うん、分からないから、こうして尋ねている」
「ははは。それもそうだな。
答えは単純、オレとリリは親友だからな。
それもきっとオレが死ぬまでつき合い続ける大切な親友の一人さ」
親友。その言葉は否定しないのか、リリシアも恥ずかしそうに小さく頷いていた。
「親友………。 どうして、闇法……リリシアと親友になれたの?」
「そんなのオレにもわかんないぜ。
まあ、出会いこそ、ママを通じての出会いだったけど、そこから先、オレとリリがこうして親友になれたのは、そ~だな多分、オレもリリも共に友達になりたいって思っていたからじゃないかな。
それ以外のことは、オレにもリリにも、誰にも分からないぜ」
「闇……リリシアもその点については、否定しないんだね。でも、僕は独りで十分だから、友達なんて欲しいと思ったことがないから、やっぱり分からないや」
射的の景品であたったうさぎのマスコット人形と津樹丸を握り締めながら剣士は、鳴恵とリリシアの横を通り抜けていく。
「そ~かな。オレは、お前とも友達になりたいって思ってるんだけどな。
まあ、オレはこんなんじゃ、諦めないから、お前がオレと友達になりたいって思ってくれるまで、何時までも気長に待ってるよ。なあ、リリ」
背中から鳴恵の声が聞こえてくる。彼女の言葉を聞く度に、沸き上がってくる彼女感情が一体何のか剣士には、まだ理解出来ないでいた。
「………」
「まあ、そう言うわけで、もしさ、独りじゃ十分じゃなくて、オレの力が欲しいって時は、いつでも呼んでくれ、無力かもしれないけど、少しぐらいなら助けになれるぜ」
本当に理解出来ない。
月嶋玉露という人間は、独りで充分で誰の助けも必要ないはずなのに。
どうして、鳴恵の言葉がこんなにも胸に響いてくるのだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




