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15-1:オータム・フェスティバル

15-1:オータム・フェスティバル


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ママ、焼きそば五つと、フランクフルト三つ。それに、牛串二つ!!」

 今日は地元の秋祭りらしく、神野家は総出で自治会が出している屋台を手伝っていた。

 元料理人志望の総知は焼きそば作りにその腕を遺憾なく発揮し、結果、この焼きそばを求め数多の人が行列を成している。

 小夜子も鳴恵も、売り子として接客から手が離せない盛況ぶり。

 それは良いことなのだが、小夜子と一緒に秋祭りを楽しめないリリシアにとってみれば、退屈の一言でしかない。

 しばらくは屋台の中にいたリリシアだったが、自分の居場所がそこにないことが耐え難く、ひとり祭りの中を歩いていた。

 人形には、本来自分の場所などないというのに。

 自虐的とも見える笑みを浮かべ、リリシアは秋祭りの中を歩き、そして、男の子と出会った。

「ママ~、パパ~、ねえ、何処に行ったの~。ねえ~」

 迷子だろうか。

 手に可愛らしい人形を抱いて、頭には可愛らしいリボンをつけた”男の子”が泣いていた。

 リリシアはその男の子の元に近づいた。

 小夜子と一緒に回れないお祭りなんてリリシアにとって意味はない。

 それなら、祭りを楽しまず、こうして人助けをしている方がまだマシだと思っての行動だった。


 しかし、三歩歩いた時点で、リリシアは歩を止める。


 目の前に確かにいたはずの男の子がまるで神隠しでもあったかのように忽然と消えたのだ。

 男の子が消えたことに祭りに来ていた人々は誰も気づかない。

 それほどまでに鮮やかに”剣士”は迷子の男の子に擬態して、人を誘い寄せていたクレデターを狩ったのだ。

「闇法師がここで何をしている? お前も人を食べに来たのか?」

 リリシアの青い瞳の先に、立つのは月島玉露。

 唯一無二の相棒は、つい先程クレデターを狩ったなど疑いたくなるほどに、静かに鞘に収まっている。

 全く持って、見事な剣技だとリリシアは改めて感心し、この場でこの剣士と戦うのは得策ではないと判断を下した。

 首を横に振り、戦う意志がない事を玉露に伝える。

 が、やはり剣士からその秘めた殺気は収まらない。

 これほど隙だらけのリリシアにすぐに襲いかかってこないのは、ここで戦えば、秋祭りに来ている関係ない人々まで戦いに巻き込んでしまうことを剣士も理解しているからだろう。

 剣士の葛藤がどちらに転ぶか次第では、リリシアも覚悟を決めなくてはならない事だろう。

 小夜子の居る日本。

 ここで不祥事を起こして、入国禁止など絶対になりたくない。

 しかし、リリシアの心配も玉露の葛藤も、殺気立つ二人の間に何食わぬ顔で入ってきた彼女によって、杞憂と化した。

「リリ、居なくなるから、一言言ってから居なくなれよ。オレも、ママも、パパも心配したんだぞ。それに、来てみたらなにやら不穏な空気だし。全くママの言うとおり、探しに来て良かったぜ」

 その右腕にいつもの黄金のブレスレットをはめた鳴恵はため息を交えながら、リリシアと玉露の間に割ってはいる。

「それに、お前。リリシアから聞いたけど、クレデターっていう存在を狩る一族らしいな。熱心なのは良いことだけど、場所は考えろよ。人の多いここじゃ、お前の剣とリリの召還魔法。不利なのは間違えなくお前の方だからな。それにクレデターから人を守るために、他人を戦いに巻き込んだら、本末転倒の何物でもないぜ」

 次いで、いまだ名前を知らない剣士の方を向き、忠告を与える。

 叱るでも教えるでも卑下するでもなく、ただクラスメートに宿題の回答ミスを教えてるかのように、何処か楽しそうに言っている。

 鳴恵の忠告に心を決めた玉露は、その秘めた殺気を霧散させる。

 玉露から戦意が無くなった事を確認した鳴恵は、満足げに頷き、リリシアと玉露の両方が絶句する提案をするのだった。

「よっし。オレもママ達から休憩もらったし、これからオレ達三人で、秋祭り見て回ろうぜ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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