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2-3:先生と生徒、禁断の……


2-3:先生と生徒、禁断の……


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 流誠の間抜けとも言える驚き顔を見た瞬間、ティーカは心の中で「ッシャァ」とガッツポーズを取っていた。

 二時限目に売店内と逃走経路を入念にチェックし、昼休みの混雑時に乗じてジャージと下着を拝借した甲斐があったというものだ。

「せんせ~い。はやく授業してください」

 わざと可愛らしい声を上げ、さらに流誠を困らせながら、人間サイズとなったエセ女学生、ティーカは、現代文講師、久我流誠の講義を楽しむのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 流誠に取って、これほど疲れる講義は初めてだった。

 まだ新人だった頃の方が楽だったと言える。

 この元凶は、言うまでもなくぬけぬけとした顔で学生の中に混じっているティーカだ。

 別に彼女が授業の妨害をしている訳ではない。

 ただ好奇心旺盛な性格故か、はたまた流誠を困らせたいがためか彼女は良く手を上げ、質問をしてくるのだ。

 質問自体は、ごくありふれたものだが、その次もありふれた質問とは限らない。

 一応とは言え、彼女と流誠は同棲している身。

 もし、何かの弾みでティーカが「流誠、あたしと一つ屋根の下で暮らしている身でしょう」なんて言った日には、明日の仕事が危ない。

 流誠は非常勤講師だし、この聖霞ヶ丘大学は名門中の名門、不祥事の噂一つで流誠の首が飛ぶ可能性は十分にあるのだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 そんな流誠の心の内など全く知らず、ティーカは思わず鼻歌を歌い出しそうな程、流誠の講義を楽しんでいた。

 内心の不安は全く表に出していない流誠は、今も又凛々しく講義を行っている。

 格好いいし、何よりティーカが手を挙げて質問したした事にいつもとはちょっと違う口調で応えてくれるのが楽しい。

 ついでに、質問に答える前に一瞬唇が引きつる所もチャームだとティーカは思っていた。

 楽しい時間は時を忘れさせてくれる。

 それは時に、シンデレラのごとく忘れてはならない約束の時間さえも忘れさせてしまう。

「うっぅ」

 ティーカの心臓が跳ねた。

 胸を押さえ、机の上に倒れ伏し、ティーカは苦しげに呻く。

 周りの生徒が慌てだしたのを知り、ティーカは小さく舌打ちした。

 この人間サイズでいられるのは大体1時間程度。それ以上はティーカの魔力が持たないのだ。

 早く、いつもの妖精サイズに戻らなければ、術に魔力を喰われ続けてやがては死んでしまう。

 妖精サイズに戻るのは簡単だが、これだけの人に見られた中で人が一人忽然と消えてしまったら……。


 ”流誠に迷惑はかけたくないのよ。”


 胸の痛みが激しさを増す。

 体の中にはもう殆ど魔力が残っていない。

「君、大丈夫か?」

 流誠の声が聞こえたが、顔を上げる気力すらもう残っていない。

 心臓があまりに早く鼓動を打つので、上手に呼吸が出来ない。

 早く、妖精サイズに戻れば良いのだが、ティーカのプライドがけしてそれを許さない。

 

 ”流誠はあたしのナイト。姫がナイトを困らせてどうするのよ。”


「ティーカ、手を出して」

 言われるがままに、手を差し出すと、流誠がその手を握りしめてくれた。

 たったそれだけのことなのに、ティーカの胸の痛みが引いていく。

 それは、まるで魔法のような出来事だった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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