M-12:絶対、渡さないよ
M-12:絶対、渡さないよ
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桜愛理子と名乗った謎の女性は、そのままお兄ちゃんの横に座って、色々とお兄ちゃんに質問を始めた。
「まあ、誠流様は、大学で講師をなさっているのですか」
彼女はどうやら、本当にお兄ちゃんとはこの場で初めて会ったみたい。
彼女とお兄ちゃんの話を聞いている内に少しずつあたしの心は落ち着きを取り戻していく。
なんだろう、違和感って言うのかな?
愛理子の事をじっくり見てると何かが非常に引っかかって、あたしの心は落ち着きを取り戻して行くの。
本当、何だろう、この感覚は?
「さあ、お兄ちゃん、もうすぐ映画が始まるから、行こう」
携帯で時間を確認して、あたしは立ち上がった。
嘘なんて言ってないし、これでこのお邪魔なお嬢様ともおさらばだ。
「あら、映画ですの? それなら、是非わたしもご一緒させてください。ねえ、よろしいですわよね、誠流様」
「駄目!」
今にもお兄ちゃんに抱きつきそうなぐらいのむかつく笑顔で、これ名案とばかりに、愛理子は頷いた。
そんな愛理子をあたしは思いっきり睨み付けるけど、この世間ずれしたお嬢様には何の効果も無かったみたい。
きょっとんとした顔であたしを見つめ返してくる。
あ~~、なんかこの女凄く、むかつくわ!
「さあ、定香、変身だよ」
っと、乙女の激情がフルチャージされているときに、またあの空気を読めない杖が忽然と現れた。
いつものあたしなら、お兄ちゃんとのデート中に現れたイリルなんて、何も考えずに投げ飛ばしているのだろうけど、丁度良い機会だ。
このお嬢様を驚かせやる。
ついでに、この収まりのつかない怒りもぶつけてやる。
「イリル、行くわよ!」
「あれ? なんか、珍しくやる気ですね、定香さん」
「あたしにも、倒さなければならない存在って、どうやらいるみたい。たとえば、このお嬢様とかね」
そう言って、あたしはイリルを愛理子の眼前に突きつけた。
「っちょ、定香さん、それ相手が違う。っていうか、犯罪行為」
「うるさい。黙ってなさい! これは、乙女の戦いなのよ! 届け、あたしの想い オーバー キュア ハート」
ここが他のお客もいるコーヒー店だという事も忘れて、あたしはイリルを振り回す。
紫の帯がイリルから飛び出し、あたしを包み込んで………、くれるはずだったけど、おかしいいつもの変身プロセスに入れない。
「イリル。これ、どういう事なの!」
「分からない。自分もこんな事初めてだ。何処からか、ジャミングが入ってきて、自分達の魔法がキャンセルされている」
「誰が、そんなこと………」
初めての事態に混乱するあたしとイリル。
そんなあたし達を愛理子はキョンとした顔で見ていたが、その顔が一瞬、人をたしなめるようなソレに変わるのをあたしは確かに見た。
「あらあら、妹さん、こんな人前で変身だなんて、それこそ騒ぎの元になりますわよ」
そう言う愛理子の右薬指で桜色の指輪が確かに煌めいた。
まさか、こいつも魔法使いだって言うの?
つづく
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