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M-11:あたしのお兄ちゃんは

M-11:あたしのお兄ちゃんは


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「久我誠流さん。一目見たときから、好きです。だから、わたしとお付き合いしてください」


 その言葉をあたしは全く持って理解できなかった。

 誰!? 

 誰なのよ、この女。

 あたしのお兄ちゃん関係リストにも、こんな清楚な人、入ってない!!

 これは一体、どういう事、なんの悪い夢なの。

 お兄ちゃん、ここで「うん」なんて絶対に言わないよね。目の前にあたしがいるんだよ。

「え~と、ごめん、本当はそんな告白を受けた後に、こんなこと聞くなんて、男としては最低なんだろうけど、ボクには本当に覚えがないんだ。

 ボクと君って、前に何処かで会ったことあったかな?」

「いいえ。正真正銘、これがわたしとあなた様との初めての出会いですわ。

 ですが、恋に時間や回数など関係ありません。

 わたしは、久我誠流さん、あなた様が大好きなのですわ。きっとこれが一目惚れと呼ばれるものなのでしょうね」

 い~~~や~~~~。

 あたしの前で、そんなに何度もお兄ちゃんが好きなんで言わないで。

 あたしは思わず両手で耳を塞いでテーブルに倒せ伏せた。

 嫌だ、嫌だよ。

 あたしはお兄ちゃんと血の繋がった兄妹で、これって禁断の恋で、でも、あの人はお兄ちゃんとは他人で、ってことは、彼女とお兄ちゃんは恋人になれるわけで、その上、彼女はお兄ちゃんが………お兄ちゃんが…好き、なんだ。

 

 お兄ちゃんとの間にある兄妹という現実にあたしは押しつぶされそうになる。


「あの、誠流さん、一つお尋ねいたしますが、こちらで奇怪な行動を取っていらっしゃる方は、どちら様でしょうか?」

「妹の定香だよ」

「妹様ですか………。ですが、それは、良かったですわ、もし彼女が誠流様の恋人でしたら、わたしのライバルとなって、大変な事態になってしまっていたかもしれませんわね」

 そう、妹であるのあたしは、彼女にとってライバルにすらなれない存在なんだ。

 

 あたしなんて、所詮妹。

 

 それ以上でも、それ以下にもなれない存在なんだ。

 ああ、これはあたしの悪い癖だ。

 こうして、一度落ち込むと全て、嫌な方向にしか物事を考えられなくなる。

「では、誠流様。妹様はおいて、わたくしと二人でお出掛けに行かれませんか?

 とても、素敵で、争いなんてない場所へ、ですけど」

 まだ名前も知らない彼女がそう言ってお兄ちゃんの手を取った。

 このままじゃ、あの女にあたしのお兄ちゃんを取られちゃう。

 そう思ったあたしは、本能的に腕を伸ばしてお兄ちゃんの手を掴んだ。

 涙で腫れた目でお兄ちゃんを見つめ、行かないでって訴える。

 あたしと謎の女性の両方に腕を捕まれ、お兄ちゃんはちょっと困ったような顔を浮かべたけど、それでも、あたしを一人置き去りになんてしなかった。

「ごめん、状況が急すぎて、ボクはイマイチ、頭が整理出来てない。こんな状況で告白とかされても、イエスともノーとも言えない。

 ねえ、君は僕の名前知っているようだけど、君と初めて会ったボクは君の名前すら知らない。だから、まずは名前から教えて貰えないから。

 それと、出来れば二人とも手を離してくれると嬉しいんだけどね」

 お兄ちゃんのお願いにわたしと彼女は同時に手を離して、そして、彼女は小鳥のような澄んだ声で名乗ったの。


「失礼致しましたわ、誠流様。わたしの名前は、さくら 愛理子ありすと申しますわ。きっと、そう遠くない未来には、久我 愛理子になると信じておりますがね」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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