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M-9:第三話

M-9:第三話


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ああ、頭が痛い。

 夏から秋への急な温度変化に身体がついていけず、あたしはちょっと風邪気味になっちゃった。

 熱は下がらないし、咳は止まらないし、頭痛はするし、もう最悪だよ。

 でもね、でもね、病人特権でね、お兄ちゃんに優しく看病して貰えてるの。

 あぅ、お兄ちゃんが顔がこんなにも近くて、お兄ちゃんの手があたしのおでこを触ってくれている。

 お兄ちゃんの手ってヒンヤリと冷たくて、ず~とく気持ちいい。

 もう、このままあたしの想いは幸せのあまり弾けて、何処かに昇っていきそうだよ。


「さあ、定香、変身だよ」


 この、相変わらず空気の読めない魔法の杖さえ、いなければだけどね。

 もう、折角、あたしがお兄ちゃんの肌(手だけど)を堪能しているっていうのに、なんでこう人の快感奪うような事言うのかな?

 それに、あたし、今病人なんですけど………。

「イリル、定香は今、病人なんだ。悪いけど、そっとしておけてあげれないかな?

 きっと今、定香がパラレル・ティーカになったら、定香の病状はさらに悪化してしまうんだ」

 ああ、お兄ちゃんってやっぱり優しい。

 その言葉だけで、なんかもう死んでも良いって思えて来ちゃうよ。

 ま、実際はまだまだお兄ちゃんと一緒にやりたいことあるから、死ねないんだけどね。

「あ、いや、誠流さん。そのことは自分も重々承知しております。ですが、今、この世界を救えるのは、やはりパラレル・ティーカしかいないわけでありまして………」

 うわあああ。

 何、この杖、あたしのお兄ちゃんの想いを無に帰すようなこと言って。

 もう、最低。

 こんな、杖、お兄ちゃんがパラレル・ティーカ萌えじゃ無かったら、絶対にリサイクルシュレッダーの中に、無理矢理突っ込んであげるのに。

「おう? あれ? そんな馬鹿なはずは、でも、確かにもう感じないし。それに、一瞬だけど、あの反応は……」

「イリル、どうした?」

「あ、いえ、あ~~、そうですね。やっぱり、病人に戦わせるなんて、倫理的に間違ってますよね、誠流さん。うん、ここは自分が現場検証してきます。それでは」

 言うが、早いかイリルは窓から外に飛び出して行ってしまった。

 な~ん~か、もの凄く逃げたって感じなんだけど、どうしたのかな?

 まあ、いいや。

 どうせ、後でお兄ちゃんの想いを無に帰した発言に対して、制裁を与えてやるんだから、その時に一緒に聞き出せば、良いだけだ。

 それに、それに、それに、邪魔者イリルがいなくなったって事は今、この家にいるのは、あたしとお兄ちゃんの二人だけ。

 そして、あたしは病人。

 いっぱいお兄ちゃんに甘えちゃうんだからね。えへへ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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