M-9:第三話
M-9:第三話
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ああ、頭が痛い。
夏から秋への急な温度変化に身体がついていけず、あたしはちょっと風邪気味になっちゃった。
熱は下がらないし、咳は止まらないし、頭痛はするし、もう最悪だよ。
でもね、でもね、病人特権でね、お兄ちゃんに優しく看病して貰えてるの。
あぅ、お兄ちゃんが顔がこんなにも近くて、お兄ちゃんの手があたしのおでこを触ってくれている。
お兄ちゃんの手ってヒンヤリと冷たくて、ず~とく気持ちいい。
もう、このままあたしの想いは幸せのあまり弾けて、何処かに昇っていきそうだよ。
「さあ、定香、変身だよ」
この、相変わらず空気の読めない魔法の杖さえ、いなければだけどね。
もう、折角、あたしがお兄ちゃんの肌(手だけど)を堪能しているっていうのに、なんでこう人の快感奪うような事言うのかな?
それに、あたし、今病人なんですけど………。
「イリル、定香は今、病人なんだ。悪いけど、そっとしておけてあげれないかな?
きっと今、定香がパラレル・ティーカになったら、定香の病状はさらに悪化してしまうんだ」
ああ、お兄ちゃんってやっぱり優しい。
その言葉だけで、なんかもう死んでも良いって思えて来ちゃうよ。
ま、実際はまだまだお兄ちゃんと一緒にやりたいことあるから、死ねないんだけどね。
「あ、いや、誠流さん。そのことは自分も重々承知しております。ですが、今、この世界を救えるのは、やはりパラレル・ティーカしかいないわけでありまして………」
うわあああ。
何、この杖、あたしのお兄ちゃんの想いを無に帰すようなこと言って。
もう、最低。
こんな、杖、お兄ちゃんがパラレル・ティーカ萌えじゃ無かったら、絶対にリサイクルシュレッダーの中に、無理矢理突っ込んであげるのに。
「おう? あれ? そんな馬鹿なはずは、でも、確かにもう感じないし。それに、一瞬だけど、あの反応は……」
「イリル、どうした?」
「あ、いえ、あ~~、そうですね。やっぱり、病人に戦わせるなんて、倫理的に間違ってますよね、誠流さん。うん、ここは自分が現場検証してきます。それでは」
言うが、早いかイリルは窓から外に飛び出して行ってしまった。
な~ん~か、もの凄く逃げたって感じなんだけど、どうしたのかな?
まあ、いいや。
どうせ、後でお兄ちゃんの想いを無に帰した発言に対して、制裁を与えてやるんだから、その時に一緒に聞き出せば、良いだけだ。
それに、それに、それに、邪魔者イリルがいなくなったって事は今、この家にいるのは、あたしとお兄ちゃんの二人だけ。
そして、あたしは病人。
いっぱいお兄ちゃんに甘えちゃうんだからね。えへへ。
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